不公平を守る

 全く当たらなかったじゃないですか、とメールすると、「いや、面目ない。削除してもらいたい」、といいながら、「お詫びに、別の予言を教えよう」、といいます。当たらない予言の取り替えなんて全く信用できませんが、とにかく、こんな予言だそうです。
 <次回のオリンピックは大変なことになる。いくつかの種目でパラリンピックに記録を抜かれる。>
 やめてください。いくら何でも、それはないでしょう。またも大はずれになること間違いありません。
 とはいったものの、確かに、例の水着で優勝というのは、人工皮膚が勝ったということですし。既に、義足でオリンピック級の記録を出した選手がいるらしいですしね。そういえば、ハンマー投げでは、またも改造肉体が勝ったそうですが、そちらはメダル剥奪とのこと。
 前にも書きましたが、これについては、私は極少暴論なのです。何事にせよ、世の中には、凡人には及びもつかないことを、命がけでやろうとする人がいます。オートバイで燃える車列を飛び越したが着地に失敗して死んだスタントマン、などについては余りよくいわない人でも、絶対安静の病院から抜け出して舞台に立ち幕が下りると同時に死んだ名優とかの話になると、おそらく何もいわないでしょう。オリンピックでもオートバイスタントでも舞台でも、本人が志を立て、凡人にはとうてい及びもつかないことをやろうというのですから、命がけだったり、ましてや後遺症とか副作用くらい何でもないという覚悟だったりしても、少なくとも私には口を出せません。
 公平でないというのですか。そんなものは、もともとどこにもありません。高額一流のコーチドクタートレーナーコックマネージャーなどなどに守られて長期海外合宿などができる選手と、仕事の合間に石ころだらけの道を走ることしかできない貧困国の選手がスタートラインに並ぶのがオリンピックです。それをだめだというのではありません。オリンピックもまた、現在の不公平な世界のできごとのひとつだというだけのことです。
 「裸足のアベベ」は遠い昔の話です。例の水着が人口皮膚なら、スポンサーメーカーの専属職人が、最適素材はもちろん、コンマ何ミリ、コンマ何グラムまで開発調整した超軽量の靴は、いわば人工フットであって、それもまた、貧困国の選手には別世界の話です。
 富裕国の選手は、長期の高地合宿で心肺機能を改造し、専属トレーナーのプログラムで特定の肉体部位を強化した改造肉体に、人工皮膚や人工フットを身につけて乗り込み、貧困国の選手の横に並びます。おそらく、そのような不公平を維持するために、安価なドーピング改造は禁止されているのでしょう。