空気について 4

 「公正」「正常化」といわず、もっと大雑把でいい加減にいえば、なるほどこういう社会心理はあるかもしれない。
 <どうも、世の中が、世界が、うまくいっていないようにも思えるのだが。いやしかし、これでもうまくいっているのだろう、そう思いたい>。
 不安とその自己抑圧、とでもいうか。仮説とかバイアスとかいっても、もちろんいいのだが。
 しかしそのうち、<これでもうまくいっているのだろう>と自らをごまかすことが、たぶんできにくくなってゆく。それでも、<もしもほんとにうまくいっていなくとも、何とかうまく戻せるだろう>と思えるのなら不安はまだ浅い。ところが、やがて、<どうやら、もはやうまく戻せる道もないのかもしれない>、と、不安がさらに深まってゆく。
 それにしても、いつ頃から私たちは、「どうも、世の中、うまくいっていないようだ」、と思い始めたのであろうか。少なくとも、安倍の「とりもどす」は既に、「世の中(あるいは日本は)、うまくいっていないようだ」という心理の存在を前提としたアピール戦略だった。
 安倍自身は、「戦後レジーム」そのものがダメだった、「戦前」を取り戻せ、とアピールしたかった(したい)のかもしれないが、安倍を勝たせた私たちの「取り戻せ」は、おそらくそこまでは遡らない。
 <よかった時代>は、漠然と、<日本ナンバーワン時代>ではなかっただろうか。(続く)