敗走記(4)

 例の騒動は、半分予想通りの嫌な展開になっているようで、卑怯にも、嫌なことは見ていません。

 「自由」には二通りあるようです。ひとつはスカラー(暇な人)の自由、つまりホームレスの自由です。もうひとつは権利としての自由ですが、これは、権利であるかぎり、認めるとか認めさせるとかいう次元の話で、王が認める、王に認めさせる。勅許状や勅任官の特権的自由です。 

 大勢の部下を連れたアレキサンドロス大王が、日向ぼっこをしているディオゲネスのところにやってきて「望みはないか」と声を掛けたところ、「日陰になってるからどいてくれ」と答えた、という有名な話があります。
 ディオゲネスという人は、元はそれなりに富も地位もあった人らしいですが、いろいろあって、ホームレス生活をしていたようで、大王の申し出よりもホームレスの自由を選んだ、ということになっています。
 しかし、どうせ作り話でしょうから、こうであってもいいわけです。
 「望みはないか」
 「邪魔しないでほっといてくれ。自由でいたいんだ」
 「自由の邪魔なんかしない。逆だ。予は、自由の邪魔をしている空き缶集めから解放してやれる。二度と奴隷商人に捕まって売られることもなく、自由でいられるぞ」