原発放射能漏れで来日中止:朝日の報道姿勢

 たまたま、夕方、ネットニュースに、「イタリア・セリエAカターニアが、予定していた来日を中止した」というマスコミ各社の報道が並んでいた。何気なく読んで気になったので、それらの記事を全て開いてみたところ、やはりあることに気が付いた。少し煩雑で申し訳ないのだが、夕方、ネットニュースに並んでいた記事の比較に、少しだけつきあってほしい。
 ○ニュースの要点については、ロイターが、次のように、簡潔に報じている。
 サッカー=カターニアが親善試合の来日中止、原発トラブル懸念で (ロイター 7/25.09:05)「7月24日、サッカーのイタリア・セリエA新潟県中越沖地震による東京電力柏崎刈羽原子力発電所からの放射能漏れを理由に親善試合の来日を中止」。
 このニュースには二つのポイントがある。来日が中止になったという事実の報道と、「地震による原発からの放射能洩れ」への「懸念」がその「理由」だという報道である。
 後者に焦点を当てて、他の記事も見てみよう。
 ○産経は、私が見た時点ではまだ中止決定前の共同の配信(共同 7/21,10:26)になっていたが、基本的には全く同じで、カターニアが、「新潟県中越沖地震による放射能漏れなどの影響を懸念して」中止を検討中だとしている。
 ○毎日の署名入り中止決定報道には、その後の経緯も加えられているが、これも基本スタンスは変わりない。(毎日 7/24,20:36)「中越沖地震直後に柏崎刈羽原発で微量の放射能を含む水が漏れたニュースがイタリアで報道され、カターニア側が懸念を示し延期を要望したという。主催者側は安全性に問題のないことを説明したが受け入れられず、日程調整も難しいことから中止を決めた」。
 ○くどくて申し訳けないが、読売も、基本的に同じである。(読売 7/24,19:30)「カターニアが、新潟県中越沖地震により柏崎刈羽原子力発電所から放射能漏れが起きたことを理由に来日を中止、(中略)。今回の遠征を企画した会社が、在日イタリア大使館関係者とともに、安全には問題がないことを説明したが、カターニアのクラブ内から反対の声が多く出たという。」
 以上、全て、地震による原発放射能洩れ」に対してカターニア側が「懸念」をもち、それを「理由」に来日中止を決定。主催者側では安全だと「説明」したが「受け入れられなかった」、という流れに乗っている。
 ○ところが、朝日は違うのである。これは全文を引用する。
 セリエAカターニアが来日中止 柏崎原発事故を理由に (朝日7/24,18:27)「日本各地で7月末から親善試合を予定していたサッカー・イタリア1部リーグ(セリエA)のカターニアの来日中止が24日、試合事務局などから発表された。カターニアが、新潟県中越沖地震による東京電力柏崎刈羽原発のトラブルで事実を誤認、現実以上に深刻に受け止め中止となった。
 カターニアは30日に秋田市横浜FC戦、8月1日に静岡県磐田市で磐田戦、同5日に千葉市で千葉戦を予定していた。だが原発の問題がイタリアで繰り返し報道され、19日に来日中止を伝えてきたという。事務局側は「報道で放射能が漏れて1万人が避難している、と誤って受け取ったようだ。事実とは違うとイタリア大使館なども通じて説得したが、特に選手の親の反発が強かった」と話した。前売り券は払い戻される。カターニアにはFW森本貴幸選手が所属している。」
 1)ロイター、産経=共同、毎日、読売では、全て「地震による原発放射能洩れ」となっているが、朝日では、「原発トラブル」と、曖昧化されている。 
 2)その上で、「報道で放射能が漏れて1万人が避難している、と誤って受け取ったようだ」という書き方はずるい。皮肉にいえば、流石にうまい。「放射能漏れ」と書かないで「トラブル」とし、その後段で「放射能が漏れて〜避難した、と誤って受け取った」という書き方をすると、「放射能漏れ」もなかったという読み方もできる。少なくともこの文は、そういう読み方を許容している。
 ということで、朝日以外は、「放射能漏れへの懸念」と、「放射能漏れ」があったことを前提にした書き方になっているが、朝日の記事では、今回の地震原発 放射能漏れがあったことは伏せられている。少なくとも曖昧になっている。
 3)朝日以外は、カターニアが、原発の事故による放射能漏れを「懸念して」あるいはそれを「理由に」来日を中止したとなっているが、朝日では、カターニアが「事実を誤認、現実以上に深刻に受け止め」て中止したのだと、カターニア側の責任にしている。
 4)主催者側の説得努力について、朝日以外は、「安全には問題ない」と説明し、「懸念」を解消してもらおうと努力したという文脈になっている。だが朝日は違う。あくまでカターニア側が「事実を誤認」しているという報道姿勢になっている。従って、その説得も、「事実とは違うとイタリア大使館なども通じて説得したが、特に選手の親の反発が強かった」と、事実を受け入れない相手の無理解を、暗黙のうちに非難する姿勢になっている。
 結局朝日は、この報道で、原発の「放射能漏れ」を伏せ、今回の原発事故を深刻に「懸念」した人々の気持ちを受け止めず、単なる「事実の誤認」だとして処理しようとしている。「現実以上に深刻に受け止め」というのだから、現実はそれほど深刻ではない、ということなのでもあろう。
 もちろん、「懸念」する人々に誤解がないなどとは全くいっていない。朝日以外の報道の文面では、相手の「懸念」を受け止めながら、誤解の部分はそれを解く努力も含めて「安全性について説明」し「説得」したのであろうことが窺われる。だが朝日では、主催者側の「説明努力」についても、「事実と違うと〜説得した」という点にだけ焦点を当てている。
 勘ぐれば、むかし原発推進へ舵を切ったといわれる朝日の姿勢が、こんなところにも現れているのであろうか。だとすれば、こんなスポーツ記事にまで、それを読みとらせるとは、流石に朝日というべきなのかもしれない。新聞が何らかの「姿勢」をもつことを非難しているのでは全くない。しかし、基本姿勢が推進だからといって、放射能漏れという事実になるべく触れずにごまかし、人々の「懸念」を単なる「事実誤認」だと処理しようという姿勢は、少なくとも私には、頂けない。読者を馬鹿にしてはいけない。
 (追記:最後のところは、少し誤解されそうなので、あとで補足する。)