消防ショウ

 消防服とヘルメットに身を固めた消防士が、燃えるピアノの焔を消そうとしているのか、と思ったら違った。山下洋輔だという。
 35年前の演奏を再体験したかった、というような意図らしい。無残なことである。
 多くの者は、黙って髪を切り、名刺を配って頭をさげて廻ったりする生活に入る。例えば出張で成田空港のゲートを通るとき、一瞬の感慨がよぎるであろうか。庶民の生はそのように苦い。
 だが、その頃のやんちゃで売れてしまった有名人の場合は、黙って髪を切るというわけにもゆかないから、例えば赤瀬川の場合は、若気の至りを反省するという本を書いて、それでまた稼いだということだ。
 昔山下は、想定外の肘うちでピアノを壊しひどく目玉を喰らったりしたが、今回は全てが想定内の見せ物で、例えばピアノも「廃棄品」だとわざわざコメントされている。35年前の服装は知らないが、今回は消防服の完全防備で、前もって許可を取り、近くにはポンプ車も待機していたのでもあろう。
 消防服だけ見て、ただの消防士と思うと大間違いだ。何といっても、紫綬褒章の受賞者、山下洋輔先生である。準備万端、予想外のハプニングなど起こる筈もない。