サミットとコンビニ(2)

 「〜ということであって、マスコミは今回の警備には好意的であるが、なお一部には過重警備ではないかとの声もあるやに聞いておる。もちろんしかし、そういった極く一部の声に萎縮して、警備に遺漏があってはならない。粛々と任務を遂行すると共に、公務執行を妨害する行動には、即時断固対処する姿勢を貫いてもらいたい。
 さてそこで、本日の事案である街頭示威行動の警備取り締まりであるが、この種の示威行動が連鎖的に騒擾状態を引きおこすことは、絶対に許すわけにはゆかない。が、知っての通り、期間中の警備については、全国的な支援体制にもかかわらず、なお要員配置が十分とはいえない状況にあり、期間中、この種のデモの封じ込めに多大な人員を割くことは避けたい。これらの点を勘案するに、今回は、どうしても期間前での取り締まりに最重点を置いて対処する必要がある。
 ここで、是非、ひとことしておきたい。かの軍艦マーチでは「護るも攻めるもクロガネのォ」と歌われるが、軍隊ならぬ警察機構にあっては、その任務は、本来「守り」であり、防御であると理解している向きが、一般はもちろん警察内部にも、なきにしもあらずである。しかしながら、社会正義と法の番人として日々任務の遂行に苦労してきた諸君の体験に照らしても、違法行為を待ってそれを取り締まるといった消極的な考え方に足を引っ張られて、非常に歯がゆい思いをして来たことが、1度2度ではなかったであろう。例えば本官も、あれは30代の頃、県名は伏せるがある県警の本部長をしておった際に・・・」
 「あの、時間がありませんので、ひとつ手短かに・・・」
 「ン、分かっとる。え〜、まあ、それはさておき、この種の街頭示威行進の警備についていえば、知っての通り、既に消極的姿勢はかなり克服され、厳重に遮断し封じ込めるという警備が基本になっておる。しかしながら、単に封じ込めるというだけでは十分ではない。例えばテロ対策の先進国である米国などでは、さらに進んで、ポジティヴ・ガード積極警備ということが主流となっておる。テロというものを考えてもらえば分かることだが、違法行動が起こるのを待ってしかる後に逮捕するというのではあまりに遅い。爆発の後に犯人を逮捕するのではなく、爆発させないように犯行前に逮捕する。ともかく、不測の事態が予期される要因を予めまるごと撤去するという積極警備が、いまや当然のこととなっておる。本官は先般、米国研修に行った際に・・・
 「あの、すみません。時間が・・・
 「分かっとる。時間がないということなので、ひとことだけにするが、ともかく、アメリカでは全てポジティヴなんだ。ポジティヴ、アグレッシヴという言葉が至るところで強調されておる。マーケッティング、商売にしても、ポジティヴなんだ。
 「すみません、あの・・・
 「いや、もう終わるから・・・諸君はラーメンが好きだろう。美味い店のラーメンは美味い。そこで美味い店には行列ができる。裏返せば、行列のできる店は美味い、ということになる。だから、諸君は、行列をみるとこの店は美味いと思い喰いたくなる。コマーシャルで新しいテレビを見ると欲しくなる。これだ。欲しい買いたいという客を「待って」売るのではない。欲しい買いたいと「思わせる」のが積極商法だ。iPhone携帯とかいうのがどんなものかよく知らんが、発売何日も前から行列をして・・・
 「そういった関係ない話は、また今度にして頂いて・・・
 「いや、関係あるんだ、後1分だけ・・・。ともかくだ。行列を見ると美味い店だと思う。コマーシャルを見ると欲しくなる。つまり、イメージができてるというか、そういう思考パターンになっているわけだな。(続)