クリントンの乗った飛行機

 いわゆる北朝鮮には、日本や韓国から拉致された者や逮捕拘束されている者が少なからずいるのですが、この度突如クリントンが訪朝したと思ったら、自国の逮捕者だけを連れ帰りました。核の傘の内のつもりでも蚊帳の外だったわけで、まあそんなものです。それにしても、もし日本だったら、帰った二人はバッシングの嵐に見舞われるかもしれませんが、大物政治家をバックにしたマスコミの仕事で行ったらしいので、ナベドン傘下のテレビ記者というところでしょうか、それなら日本でも、賞賛か同情扱いかもしれません。
 ところで、今回のこと、アメリカ側では「私的訪問」だといっています。先方のトップと会談し、並んでポーズをとって写真に収まり、政治的大勝利と扱われ宣伝される。そういうことを全て承知で行ったわけですから、いまさら私的もないものですが、表向きはあくまで公的ではないということで、飛行機も自分で調達した民間機に乗って行ったらしいですね。
 この飛行機、クリントンの「昔からの親友」が、2千万円近い往復の費用も含めて提供したものだそうですが、その親友の超大金持ちというのは、「不動産相場で財をなし」た人物だとのこと。つまり、今回表向きには「公式」を隠したいアメリカの政権に代わって一肌脱いだのは、昔からの大企業でも財団でもなく、物を作らず投機だけで儲けた「不動産相場」の超金持ちだったわけですね。
 クリントン夫妻というのは、日本でいえば、戦後生まれの「団塊の世代」つまり「全共闘世代」で、各国で学生の政治反乱などもあった68年に大学を卒業しています。で、彼らも当時は「ベトナム反戦」で、彼は事実上の「徴兵拒否」もしているわけです。もちろん、彼らの政治家志向はそういった反戦的政治関心から始まったのではなく、はじめから政治的野心があったのでしょうし、また政治家になってからは、そのつどの政治的判断によって、自らの立場などいくらでも曲げてゆくわけで、彼らはリベラルであり続けたわけでは決してありません。
 それにしても、若気の至りだったにせよ一応「反戦」だったクリントンにとっては、戦闘機やミサイルや原潜などなど超高価な「物」をバンバン作って政府に売りつけ戦場で消耗して買い替えてもらうといった、そんな物作り系超金持ちは、やはりちょっと「親友」として選び難かったのかもしれません。確かに彼らは、「戦争で儲ける連中」とか「死の商人」などと、反戦世代には評判が悪かったでしょうから。
 一方、クリントンが代わりに「親友」として選んだのは、物を作らずただただ「相場」で儲ける超金持ちだったわけです。昔は彼らも、「濡れ手で儲ける連中」とか「シャイロックの末裔」などと悪口をいわれたりしたのでしょうが、今ではすっかり様子がちがって、「金融」とか「投機」とか「相場」とかで儲けるのが、最もスマートな金儲け屋だと見なされます。実際、かつてのクリントン政権は、重化学工業からIT・金融に重点を移すことで経済成長を確保したのでした。そんなクリントンにとって、「不動産相場」で巨額の産をなした金融界の大物が、「昔からの親友」として一肌脱いでくれたわけです。
 小さい記事の中に一行あっただけの、別にどうということはない話ですが、クリントン個人だけではなく、何となくアメリカの歴史の流れが伺われます。というのは読み過ぎでしょうか。