F・ノート7

 生命体ないし生命系は、環境世界を二重化する。もちろんその区切りは曖昧ではあるが、それは問題ではない。
 ともかく、生命体は、絶えざる生命活動による内的状態の劣化すなわち生成した不要物の増加と消耗した原物質の不足を、近傍空間との物質交換によって、更新してゆく。その意味では、よくいわれるように、生命系の活動とは、熱力学の法則に逆らって恒常性を維持することにあるといえる。
 しかし、当然のことであるが、内的な生命活動に関わる物質の増加と不足という状態劣化を近傍領域との物質交換によって更新するということは、内なる劣化を外なる領域に、いわば押しやることである。
 したがって、生命体の自己更新が持続するためには、近傍領域もまた、自らを更新するのでなければならず、そのためには、より外の世界に開放しており、そこにも物質交換が保障されていなければならない。
 ところで、生命体の内外での物質交換は、生命活動の一環であるとして、一方近傍領域と外の世界とのそれは、いわば自然の循環運動による。海底の岩に付着した単細胞生物の体表に取り込むべき必要物を運んで来たり排出した不要物を持ち去ってくれるのは、海水の流れであり、われわれが皮膚呼吸を続けるために別段何もしなくてすむのも、空気というものがゲル状ではなく自然に対流してくれることによる。つまり、近傍領域は生命活動とは関係なく、外的世界との物質交換をすることで、自らを更新する。
 さてそうすると、外世界もまた劣化することになるが、しかしいまは、外の世界には、スケールが無限大の「大いなる自然の自己更新力」が働いている、というだけに留めておく。もちろん、干潟の水たまりとか宇宙船とかいった個々のケースは別としても、ずっと外側には、いずれ地球という境界があるのであるが。