F・ノート8

 さてしかし、そういうことであるとすれば、生命体の更新を支える物質交換は、近傍領域の更新を支える自然循環のレベルを越えることができない。
 そこで、生命体の活動レベルが上がるには、新たな変化がいる。おそらく、そのひとつは、近傍領域の拡大であって、平たくいえば、生命体の表面面積を大きくすることであろう。例えば植物が葉や根の表面積を拡張することで、自然循環の非力さに対応したりするように。
 実にいい加減で大ざっぱな話であるが、一方、ここから運動と移動ということが考えられる。つまり近傍領域の更新を、自然循環にまかせずに、生命体自体が補足または担当しようというのである。例えば単細胞の生物から既に、繊毛や鞭毛で体表近くの水を動かしたり、自ら移動したりして、自然循環を越えて近傍領域の更新をする。
 運動とか移動とかいっても、最初は方向性も傾向性ももたないものであったろうが、より更新に有利な条件を察知するセンサーが生まれ、それと連動して、方向性や傾向性をもった運動が現れる。例えばpHの高い方に泳いでゆくとかいうように。そしてさらに、より高次複雑な情報受容とそれに連動した高次複雑な運動が生まれるだろう。
 一方生命体内の機構や活動が高次複雑化してゆくことに対応しつつ、触手を伸ばして外のものを取り込むなどなど、摂取や排出の機構や活動もまた高次複雑化しよう。
 さらに、と大急ぎだが、こうして生体機構とその運動がどんどん複雑化すると、反応とフィーバックを伴う諸運動を統一的に制御するための情報処理機構が必要となり、神経さらに脳が現れる。