1-10:鉄道の時代

monduhr2007-03-23

 ついでにもうひとつ。三四郎が名古屋で途中下車するシーン。
 「大きな行李は新橋まで預けてあるから心配はない。三四郎はてごろなズックの鞄と傘だけ持って改札場を出た。」
 「ズック靴」も死語となって「スニーカー」になったが、「ズック」は、スニーカーに使われているような、綿または麻の厚手の布のことである。かつては鞄もズックのことが多かった。
 三四郎が預けた「行李(こうり)」は、柳の枝を編んだ柳行李だろうが、いまは殆ど目にしない。行李を「新橋まで預けてある」というのは、「チッキ」のことである。飛行機を利用する際、大きいトランクなどは、搭乗の際に預け、最終到着飛行場で受け取るようになっているが、かつての汽車の旅も同じで、柳行李のような大きい荷物は、荷札を付けて乗車駅で預けると、最終到着駅で受け取ることができた。「チッキ」は check または ticket が訛ったものらしいが、ともかくそういう「手荷物」のことで、「駅留」にして駅で受け取る他に、料金を払って配達も頼めた。
 だがそうなると、乗車の際に「手荷物」を預けるだけではなく、「小荷物」だけの輸送も駅で頼もうということになり、次第にむしろそちらが主体となってゆく。(ただし、手荷物/小荷物の用語区別は厳格ではないようだ)。
 こうして、鉄道は、物流の面でも時代を変えてゆきつつあった。