1897年-12:軍艦マーチ

 若い人は別として、「軍艦マーチ」といえば、パチンコ屋を思い浮かべる人が多いだろう。あるいは右翼の街宣車とか。実際には、軍艦マーチこと「軍艦行進曲」は、外国でもかなり有名で、曲(瀬戸口藤吉)自体の評判も悪くはないのだが、これが作られたのも、実はこの年1897(明治30)年である。
 他の軍歌に比べて、荘重さや暗さは一切ない。音階も、47抜きを基本にしつつも、最初のフレーズから4(ファ)も入って新鮮であり、それに何より、「まーもるッも せーめるも クーロガネッ のォー」と、調子がよいこと甚だしい。
 はじめて近代戦で大国を撃ち破って鼻息荒いこの時期の調子の良さを象徴する「名曲」は、戦後も、パチンコ屋だけではなく大売り出しや運動会などなど、とにかく調子よく景気付けをしたい時の音楽として、長く使われ続けることになる。
 ところで歌詞(鳥山啓)には、「黒鉄の城」、「真鉄の艦」、また「石炭の煙は竜のように」というようなフレーズがちりばめられている。汽車も軍艦も、鉄と石炭。この年、筑豊炭田の近くに八幡製鉄所の建設がはじまることを思い出して頂きたい。
 それにしても、1億近くの巨費を投じて進行中の軍艦建造計画、軍事力の増強は何のためなのか。軍艦マーチの歌詞は、調子よく「黒鉄の城」に呼びかける。「仇なす国を 攻めよかし」! 
 「仇なす国」とは、もちろん、三国干渉を主導した憎き宿敵ロシアであろう。