オレ竜

 どうでもよいような話ばかりで恐縮であるが、野球の話である。
 日本シリーズで優勝を決めた第5戦。中日落合監督が、8回までパーフェクトで投げていた山井を、9回からリリーフエースの岩瀬に替えたことが話題になっている。完全試合を見たかったというか、さすがオレ流だというか、そこが分かれるのだが、しかし、オレ流というなら、山井から降板を申し出たかのようなコメントはせずに、「オレが決めていたことだ」と明言すべきであった、という意見には頷ける。
 と、そこまではマスコミ意見の範囲であるが、もう少しうがった見方をしてみよう。どうでもよいような話ではあるが。
 超一流の選手にしかできないことがある。金田の400勝とか王の868本塁打とかは、超一流の選手が生涯をかけてなし遂げた大記録であるが、落合の三冠王3回もまた、もちろんそこに数えられよう。
 さて、日本シリーズでの投手といえば、何といっても1958年、59年のそれが物凄い。
 58年日本シリーズで、西鉄ライオンズジャイアンツに3 連敗して崖っぷちに立たされる。ところが、第4戦から復活した「神様仏様稲尾様」は、4連投4連勝で、大逆転優勝をもぎ取ってしまう。そしてまた翌年。今度は南海ホークスの杉浦が、同じくジャイアンツを相手に、初戦から4連投して4連勝。一人で、宿敵巨人を完膚無きまで圧倒したのであった。
 稲尾は月間11勝や年間実に42勝、杉浦もまた、最初の3年間で96勝という、共に驚くべき記録を持つ大投手である。今とは事情が違うとはいえ、日本シリーズ4連投4連勝などという驚異的な仕事は、超一流の選手にしてはじめてできた快挙であった。
 だがしかし、そういった超一流選手にしかできない記録とは別に、信じられないようなサヨナラ試合などが時折起こる。記憶に新しい所では、例えば2001年、近鉄が勝てば優勝という試合ながら3点リードされた9回裏、満塁で送り出された近鉄北川が打った、代打逆転サヨナラ優勝決定満塁ホームラン。あるいは、もっと小さいことでは、新庄の敬遠球サヨナラヒット。もちろん、その年北川は、前年までとはうって代わったようにホームランも打っていたし、新庄のプレーも、実は前から着想し練習を重ねたサインプレーだったのであるが、しかしそれでも、ミラクルな話題性の方が、北川や新庄の実力を上回ったことは間違いない。
 だが、私が思うに、いや既に報道されていることであるが、落合という選手は、もともと実力以上のパフォーマンスが性格的に好きではない。実力の人落合は、実力以上の人気や話題性がむしろ嫌いなのである。
 今回山井が、「完全試合日本シリーズ優勝を決める」という、とてつもないことをやる可能性は確かにあった。もしそれが実現していれば、マスコミは山井を、シリーズ史に、否プロ野球史に残る、超ミラクル・ヒーローとして扱ったに違いない。
 だが山井は、少なくとも落合から見れば、「8回まで本当によく投げた」という程度の称賛に値するレベルの選手である。
 思うに、山井が、1試合だけのミラクルによって、歴史に残る超ヒーローになることは、超一流選手であった落合にとって認められないことであった。そして落合は、山井を替えた。
 もちろんこれは、下司の勘ぐりである。しかし、私は落合が嫌いではないからこそ、彼の性格から見れば、この勘ぐりは当たっていると思う。
 まあ、どうでもよいことなのであるが。