喪失するのは何か

 (承前)刑事「責任を問えるかどうか」は、「心神喪失の状態にあったかどうか」にかかっているようですが、「心身の喪失」とは、「気を失って」いる状態ではありませんし、例えば躓いて転ぶような身体の「一時的な制御不能」状態でもありません。
 さらにそれは、「我を忘れた」「夢中の」「衝動的な」行動の類のことでもないようです。何しろ判決は、殺害は「衝動的」だったと認めながら、逆に「心神喪失」と判定したのは、「殺害」についてではなく、「遺体損傷」行動についてだったのですから。
 では、殺害時にはなく(少なくとも完全には認められなず)死体損傷時にはある(少なくともその可能性を否定できない)「心神喪失」とは、一体何だったでしょうか。先回りしておけば、この問い答えるために持ち出されるのが、「別人格」という観念だったと思われます