少年よ、大志を抱いてどうなるか(7)

 気の短い方に誤解されないように、念のため、殺されたり傷つけられたりした人々にはそれぞれかけがえのない歴史があり、もちろん殺人傷害は許されるべきことではないと、蛇足的前置きをつけた上で、以下は、毎日新聞6月16日配信記事(井上英介まとめ)(→href="http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080616-00000130-mai-soci">ここ)を基にしています。
 ・・・・・そして、いま
 
 Kが地元の名門高校に入学したとき、教育熱心な両親は喜んだ。少年はどんな「大志」を抱いただろうか。
 季節によってはまだ暗い午前5時半過ぎ、Kが住む派遣会社の借り上げ社宅に迎えのバスが来る。かつて70年代に鎌田慧は、季節工として潜入ルポしたトヨタの工場を「自動車絶望工場」と名付けたが、6時過ぎにKが送り込まれたのも、トヨタの下請け工場である。仕事は塗装検査工。6時半に始業の合図があると、僅かなトイレ休憩と食事時間を除いて8時間立ち詰めで、目を真っ赤にしながら塗装面を睨み続ける。汚れを見逃せば工程長が飛んできて、下手をすれば始末書である。もちろん残業もざら。
 それでも、「やつはまじめだった」と、一緒に働いた20代の派遣社員が言う。「トヨタ期間工(契約工員)になりたいと言っていた」。「大志」とはいえない、あまりにも控えめな「志」だったが、それも、応募したが不採用。はかない夢だった。
 今月3日に、派遣社員の削減が発表された。「月末で辞めてもらう」。150人がそのひと言で収入を断たれることになった。
 Kの中で、何かが決壊した。
 家は壊れ戻れない。派遣社員として流れてきた浮き草Kが最後にたどり着いたのは、虚実入り乱れる「アキバ」だった。



 ・・・かすんでゆく目でKはなお、男たちが彼のすぐ前で、頬と頬をよせ、最後の結末を見守っているのを見た。
 「犬のようだ!」、と彼は言った。恥辱だけが生き残るように思われた。

                          (カフカ『審判』中野孝次訳、最終場面)