煙草と長生きと(2) 

 「ねえ。昨日の話だけど。森永さんが、何いってるわけ?」
 「ああ、だから、喫煙によって国民医療費が増えるといわれている問題だよ。」
 「でしょ。喫煙者は肺がんなどになる率が高く、それだけ医療費がかかる。その分、保険で国が負担する分が増えて、税金を余計に使うってことでしょ。やっぱ、国民医療費抑制のためにも、禁煙してもらわなくちゃ。」
 「ところがどっこい。森永さんにいわせれば、そこが違うんだな〜。」
 「え〜、どこが。」
 「煙草は身体に悪い。喫煙者は不健康だ。」
 「だから、病気になって医療費がかかるんじゃないの。」
 「でも、早く死ぬ率が高い。」
 「そう。統計的に、平均寿命が短いということがはっきりしてるんでしょ。」
 「うん。煙草を吸わない人の方が長生きするらしい。」
 「でしょ〜。」
 「でもね。長生きすれば、長生きした年数だけ医療費はかかるし、年金給付も必要だろ。つまり、それだけ政府にとっては金がかかることになるわけ。」
 「無駄に長生きするなってこと?」
 「そういっちゃ身も蓋もないけどね。でも、ともかく、俺たちみたいに煙草を吸って早死にした方が、国民経済的には安上がりというわけだ。」
 「いえいえ。そうとはいえないわよ。長生きすればするほど、老衰死やぽっくり死の率が高くなるでしょ。煙草を吸って肺がんなんかで死ぬより、手間もかからないし、医療費もかからない。」
 「長生きしても、老衰で死ぬとは限らんだろう。」
 「あなたの方が、<率>の話を持ち出したんじゃないの。そりゃもちろん、実際には長生きする喫煙者もいれば、煙草を吸わない人で大病にかかる人もいくらもいるけどね。でも、統計上の話でいえば、大した病気もせずに老衰で静かに死ぬ人の率は、煙草を吸わない人の方が高いでしょ。それだけ医療費は少なくてすむのよ。」
 「全くああいえばジョウユウな奴だな。じゃあ、医療費のことはおいとくとしても、しかし年金給付は、長生きした分だけ確実に増えるぞ。」
 「あんた、国民年金なんて、いくらもらえると思ってんの。高額医療費に比べればたかがしれているわ。」
 「じゃあ、金のことはいわないとしても、でも、年金で払おうが何で払おうが、長生きすれば、それだけ無駄飯を食うことは間違いないだろう。地球規模のこの食糧難の時代に。」
 「何いってるの。世界的な食糧難っていうなら、世界的な環境破壊も考えてほしいわね。煙草の煙で空気を汚し、空気清浄機でエネルギーをい使い、何重にも環境を悪化をさせてるのは誰なのよ。」
 「煙草なんて、ごく一部のヘビー・スモーカーを除けば、四六時中吸ってるわけじゃない。空気のことをいうのなら、大体人間は、生きてる間は一瞬も途切れずに息をするんだからね。長生きすれば、その分余分に炭酸ガスを出すじゃないか。」
 「何いってんですか。あきれるわね。無駄な女は早く死ねっていったシンタロウと一緒じゃないの。いいわよ。貴重な食料を無駄に食べて、貴重な酸素を無駄に吸って、せいぜいあんたより長く生きてやるんだから。」
 「とうとう開き直りかい。」
 「あ、でもだめだわ。美人薄命っていうから、私は長生きできない。逆に、あんたのような憎まれっ子は、無駄に酸素を吸って有害物質の混じった煙まで吐き出しながら、世にはばかって長生きするのよ。国民経済の点からも最悪人物ね。」
 「だから、そうならないように、せいぜいメタボに励み、たくさん煙草を吸ってるのさ。」
 ・・・・・何が何だか分からなくなりそうです。