食糧とエネルギー

 ・・・ということなので、私もひとつ、スケールの大きいことを、声高に自信をもって言ってみると、ほんとのように聞こえるでしょうか。例えば・・・・・
 私は私のカネを動かし、私の動かすカネが世界を動かしているのだから、つまり私は世界を動かしているのである。
 今狙っているのは、もちろんエネルギーである。
 とにかく、われわれには金があって技術がある。われわれは、あらゆる物を機械で大量生産し、世界中に売って、大いに儲けてきた。
 しかし、もっと儲けたい。彼らの作れない工業製品だけでなく、例えば農産物なども買わせたい。だが、遅れた国は大体農業国だ。さてどうするか。 われわれは先ず自国で農地を買い占めて、飛行機で種や農薬を撒き超大型コンバインで刈り取るような超大規模経営に、農業の姿を変えてしまった。機械制工場生産のシステムを応用したやり方だから、安い穀物を大量に作れる。
 遅れた弱小国は、そんな安い穀物が入って来て自国の農業がつぶれては大変と、農産物に高い関税をかけたりしたが、屁でもない。われわれの政府は、われわれが牛耳る国際機構なども使いながら、あらゆる機会につけ込んでは、貿易自由化とかグローバリゼーションとかを旗印に、弱小国を脅して関税を下げさせた。そうなるとしめたもの。われわれの大規模生産の安い穀物に勝てるわけもなく、たちまち弱小国の農業は衰退し、弱小国は、われわれの食糧供給に依存するようになった。
 もちろん、こうなれば価格は、われわれ売り手の思いのままだ。それに、われわれは、ただ農産物を作って売るだけではない。今や農産物は、国境を越えて大量に売り買いされる。われわれは、弱小国の生命を制するほど大量の穀物を、現物で買い、先物で買い、食糧の国際価格をつり上げては、市場を睨んで高く売って大儲け。
 こうなって弱小国が大あわて、いったん壊滅した農業を再び復活させようとしても、それは容易なことではない。ま、それでもやりたければやればよい。われわれは、遺伝子組み換えなど、バイオ技術を駆使して新品種を開発し、種子を確保している。弱小国で何を作るにしても、われわれが先端バイオ技術で開発した品種の種子を買って使わなければ、病害に弱く収穫も少なく、コスト的に問題にならない。
 われわれは工業製品だけでなく、食糧に関しても、いまや世界を握っているのだ。
 さてそこで、次に今狙っているのが、エネルギーである。
 昔石炭今石油。われわれは、じゃんじゃん石油を使って、大いに儲けてきた。足りなくなると、産油国の王族を手なずけて、タンカーで運んでくればよかった。だが、そろそろ石油も潮時だ。このところ、あのあたりの連中が反抗的だというような小さな理由からではない。産油国であろうとどこであろうと、われわれは外国には依存しない。逆に、世界がわれわれに依存すべきなのである。
 そこでわれわれは、世界的なレベルで、地球温暖化のキャンペーンをやることにした。石油を燃やせば、熱が出る、CO2が出る、排ガスも出る。石油こそ環境破壊、地球破壊の元凶だ、と。そうだそうだと、代替エネルギー探しがはじまった。薪炭は森林を破壊し、風や太陽光などは補助以上にはなりえない。バイオ燃料については、食糧危機を引きおこしてもいいのか、とわれわれは今年脅してやった。こうして、世界中の人々は、いま探し求めている。クリーンで地球に優しいエネルギーは何かないのだろうか、と。
 ご承知のように、カネと技術のあるわれわれにしか作り出せないエネルギーが、ひとつある。ただしそれは、一瞬の事故で広大な地域を生物が住めない土地に変えてしまうほど凄まじい環境破壊を引きおこし、事故がなくても、危険きわまりない廃棄物の処理技術がなく、せいぜい埋めることで強烈な汚染を地中に蓄積しておくことしかできない。それは、環境破壊と環境汚染の象徴のような、実に危険なエネルギーである。
 われわれは、まだ時期を見ている。しかし、反石油キャンペーンのおかげで、石油ではないというだけで、クリーンなエネルギーだとイメージアップするわれわれの戦略が、次第に功を奏しつつある。
 だがもうひとつのネックがあった。コストである。石油が安いうちは、人々は石油を捨ててまでわれわれのエネルギーに乗り換えないだろう。
 もちろん、石油高騰の全てがわれわれが仕掛けたものではなく、他の要因も介在している。しかしわれわれは、この時を逃さず、カネに物をいわせて石油市場を操作し、石油高騰をさらに煽った。こうして、石油の高騰が続けば、次世代エネルギー待望の声が高くなる。
 このエネルギーは、超高度な技術と超大型のシステムが生み出すものなので、弱小国には作れない。万一、自国で開発実験するような弱小国が現れると、たちまち核兵器製造だと難癖をつけ、脅して実験開発を止めさせる。こうして、われわれは、われわにしか作れないエネルギー・プラントを、世界中の弱小国に売りつけて大儲けする筈である。
 石炭から石油に変わったように、いまエネルギー革命が進行中である。われわれのシナリオに乗って、世界中の人々は、温暖化が最大の地球危機だと信じている。もし温暖化が最大の問題なら、解決策は代替エネルギーしかないだろう。風、水、バイオなども・・・・せいぜい試みればよいが、やがて、石油に大きく代替するというのは無理だと気付く筈である。。
 こうして、世界中の人々は、じわじわと、了解してゆくだろう。あれに依存する他、選択肢はない、と。
 いずれ石油は暴落して、埋蔵石油だけで暮らしている産油国は、時代に取り残される筈である。
 そして、全世界の人々は、われわれの独占輸出するエネルギー発生装置に依存するのだ。それはそれほど遠い将来ではないだろう。