夏の風景3

 暑い中を歩いていた。左側にある川の向こうに行きたい。
 やがて橋が見えた。歩いている川沿いの道よりかなり高く、横断歩道のような形になっているのは、今は全く見えないが、川を通る船に配慮しているのでもあろうか。
 ともかく階段があったので、それを登って踊り場に出た。
 ところが、そこから橋に、接続していない。
 若い男がいて、私を見ると話しかけた。「工事が未完成なんですよ。それなら階段の下で通行止めにするなり、せめて張り紙でもしておいてもらいたいですよね。それとも、下にそういうものがあったでしょうか」。もちろん、そんな掲示があれば、私も登ってきたりはしない。
 見ると、繋がっていないのはあと少しである。「あなたなら、飛び移れるのじゃないですか」、と私がいうと、男もそう考えてそこにいたらしく、「はあ」といったが、確かに隙間の距離が微妙である。大丈夫、飛び移れそうにも見えるが、しかし跨いで渡るという程度の安心距離ではない。「どうしますか」と、逆に私に聞く。
 私は、もう一度隙間を覗き込み、自分の体力を考えてみたが、結局思いとどまり、「私はやめておきます」といって戻りかけると、若い男は、「そうですか。それじゃ、こちらから行けますよ」と、心を決めたのか歩き出す。階段は向こう側にもあって、つまり何のことはない。私たちは、この暑い中、まっすぐ歩けばほんの数歩の距離を、わざわざ階段を登って降りたのである。
 だが、と歩きながら考えた。もし跳んでいれば、どうなっていただろうか。
 気がつくと、若い男は、いつの間にかいなくなっていた。