ローズの島の物語

 すっかり古い話になりましたが・・・
 例えば、小さい島があって、人々が魚をとってのんびり暮らしていたとしましょう。ところが、ある日、どこかから鉄砲をもった男がやってきて、「俺はローズだ。この島を「ローズの島」ということにする」、と勝手に宣言します。やがてローズの仲間である白い連中が次々と来て、島にでかい工場を建て、何かを作り始めます。流す廃液で海に魚がいなくなり、島の人々は工場で働く他ありません。どこから原料を運んで来るのか、工場や機械の仕組みはどうなっているのか、できたものをどこへ運んで行くのか、そんなことは、島民にはサッパリ教えてくれません。ただ白い連中の命ずるままに、朝から晩まで単純な仕事だけさせられます。白い連中は運び出した製品を売って大もうけしているらしく、でかい邸宅を島のあちこちに建てますが、島民の暮らしはさっぱり楽になりません。
 ということで、やがて、のんびりしていた島民たちからも、「これじゃあんまりじゃないか」「そうだそうだ」、という声があがります。そして、鉄砲で脅されたり殺されたり、それはもう大変な苦労をしますが、何しろ島民の方がずっと多いわけですし、ようやく、「もとはといえば、われわれの島じゃないか」という島民の声が通ります。すると白い連中は、「ああそうかい。自分らでやろうってのかい。原料をどっから持ってくるのか、どうやって機械を動かすのか、製品をどこにもって行けばよいのか、なんも知らんくせに。やって見ろってんだ」、と、尻をまくって一斉に島から出ていってしまいます。いやあ、その後、島民たちは実に実に大変でしょうね。
 先日サミットが終わりましたが、成果が乏しい、というのが大方の評のようです。
 ところで、テーマのひとつは「アフリカ救済」ということでしたが、何を決めたかというと、ただひとつ、「ジンバブエ制裁」だったらしいですね。
 もちろんジンバブエの現体制に重大な問題があることは間違いないでしょう。実にひどい強権独裁体制のようです。そして経済破綻。超インフレといえば、第一次大戦後、イギリスを含む戦勝国側が課した莫大な賠償金が、破弊した敗戦国経済を完全に破綻させ、天文学的なインフレをもたらしたことが有名ですが、ジンバブエの超インフレも物凄く、インフレ率が実に100万%を越えるともいわれています。去年まで500円だったラーメンが、え〜っと1杯500万円になるわけですか。想像を絶する事態ですね。
 しかし思えば、あの国は、ついこの間まで、イギリス領「ローデシア」つまり「セシル・ローズの国」でした。「アフリカの年」と呼ばれた1960年以降次々と独立してゆく旧植民地を後目に、イギリスは「ローズの国」を手離さず、ようやく1980年の総選挙でジンバブエ共和国が成立します。実に実に大変だったし、今も実に実に大変なんでしょう。
 もちろん、実に大変だから強権独裁もやむをえない、というのでは全くありません。しかし、つい先年まであの国を食い物にしてきた旧宗主国イギリスを含むサミット諸国は、あの国の人々の悲惨な現状を前にして、「制裁する!」と決めただけだというのす。(もちろん、日本はイギリスにも何もいいません。「それなら北朝鮮への制裁はどうなんだ」と反論されると大変ですしね。)