妖怪国ニッポン

 年末ということで、本屋の棚にたくさん手帳が並んでいます。それもそうだと思って、選ぶことにしました。ところが、選ぶどころではありません。いくつ手にとってみても、全ての手帳に、いらぬ落書きがしてあるのです。
 以前、「天文手帳」というのを買ってみたことがありますが、確か日付欄には、「月齢14.8」とか「しし座流星群」とか「部分月食」とかいった記載がありました。もちろん、「記念日手帳」というのがあって、「バレンタインデー」とか「サラダ記念日」とか書いてあってもいいわけです。「占い手帳」というのがあれば、「恋愛成就、失せ物は北」とか「赤がラッキー☆」とか書いてあったりするでしょう。その他「船員手帳」とか「農協手帳」とか「こりん星手帳」とか、いくらでも考えられます。それらは全て、特定の職業や特定の趣味、興味をもった人が使うものですから、いろんな記載があって当然です。
 ところが、私が今日見たのは、一般向けの、「何とかダイアリー」とか「ビジネス手帳」とか、要するに、本屋や文具屋にたくさん並べられている、ありふれた手帳です。なのに、今日手に取ったものには、例外なく、365日、いらぬ落書きがしてあるのです。
 何ですかね、あれは。友引とか大安とか。
 もちろん迷信で、だから差別につながるということで、かつてある市役所が作成した六曜入りの職員手帳が、人権団体の抗議を受けて、回収廃棄処分になるという事件もあったようです。それに第一、迷信の中でも非常に新しく、いい加減で由緒薄く、もちろん仏滅なんて勝手にいっているだけで、仏教とも全く関係ありません。
 とはいえもちろん、そういう迷信を信じる人にとっては、あれは落書きではありません。「ご結婚式場ご契約手帳」とか「ご葬儀場ご契約手帳」とか、仲間うちで勝手に使用すればよいでしょう。
 しかし、そうでない者にとっては、ただの落書きでしかありません。と思うのですが、ところが、少なくとも今日手に取った手帳には、全てに落書きがしてありました。もしかすると、わがニッポンの住民は、気が付かぬまま、妖怪に乗っ取られてしまっているのかも。