負けては国家が亡びるらしい

 (承前)受賞者を含むご高名な先生方は、予算削減は「国家存亡にかかわる」、「想像を絶する」「不見識」だと、とにかく凄い剣幕です。物言いの体質が似ているのか、早速慎太郎知事が応援してますね。ノーベル賞の学者たちが血相を変えて出てきて政府にものを言ったのはごく当たり前こと。それを斟酌しないと、政府はつぶれないかもしれないが日本がつぶれる」、といったとか。
 確かに、首相はどんどん交替しますが、ノーベル賞をもらった首相はたった一人ですから、首相より受賞者の方がエラい。「日本がつぶれる」といわれては、首相をはじめ関係閣僚もビビるでしょう。
 前回からいいましたが、私は予算の内容を問題にできる柄では全くありません。ただちょっと桑原だなあと思ったのは、尻馬知事も出てくるほど、先生方が「血相を変えて」、「国家存亡にかかわる」、といっているらしいことです。
 もちろん、ノーベル賞受賞者でも皆さん同意見というわけではないでしょうし、例の田中さんなどは、「削る場と思っていたが、装置開発という裏方の仕事が重要との意見もあり、うれしかった」、ともいわれています。またある討論会では、科学者の中から、スパコンの仕分け結果をよくみると、けっこう的を射た指摘がされている」、といった声も出たようで、科学者こぞってというのではないようです。第一、仕分け人の中にも、ちゃんと高名な科学者の方が入っておられるようですし。
 が、どうも超一流と自他共に許すノーベル賞級の先生方(の一部)は、「想像を絶する不見識だ」と超マジに怒っておられるらしく、しかも何故かそこに、「国家」が出てくるのです。
 確かに、科学技術は富国強兵の大本です。「知は力なり」ということで、早くも17世紀のイギリスには王認証の科学アカデミーができますが、当初から科学は技術、技術は産業、産業は国富、国富は強兵、という連鎖が見通されていたわけです。ま、科学というのはそんなものだといってしまえばそれはそうでしょうし、大体ノーベル賞も、ダイナマイトという土建軍事支援産業がはじまりですし。
 実際、問題のスパコン富士通というように、大型プロジェクトともなると、じかに大企業と結びついていますし、より広く産業界は、技術開発につながる基礎研究を国に負担させたいわけです。現に、今回の仕分けについても、民主党自民党と違い、科学技術予算の拡充をもくろむ経済界との間にしがらみがなく、遠慮なく縮減できる」、ともいわれており、裏返せば、科学技術予算は、経済界の<もくろみ>と<しがらみ>に強くからみつかれていたようです。いまさらいうことでもないでしょうが。
 それでも、世の中には<建前>というものがありますからね。超一流の先生方なんですから、例えば、「ひたすら真理を求めるのが科学者の使命です。産業や国家は関係ありません。でも、真理探求のための私たちの研究に予算を使わせて頂けるよう、納税者の方々にも是非ご理解頂きたいのです」、とか何とかいえば、さすが立派ですねえと感心したくもなるのですが。いう筈ないですね。予算見直しするとは想像を絶する不見識だと、上から目線です。
 あるいは逆に、いっそ<本音>で、「土建業界なら土建予算がほしい、それも大型建設プロジェクトに大型予算がほしいのと同様に、科学研究業界も高額の予算がほしいのです。それも、ロクでもない研究にばら撒くのではなく、われわれのような超一流研究、超大型研究に予算をつけてもらいたいのです」、とかいえば、正直ですねえと苦笑されたかもしれませんが。いう筈ないですね。予算を削れば国家が亡ぶと、ほとんど恫喝口調です。
 「国家存亡」というのは、仕分け人や政府を恫喝する戦術に過ぎないのでしょうか。それにしては、最初に戻るのですが、どうもマジに「血相を変えて」おられるようなのが気になります。そういえば、そんじょそこらのノーベル賞受賞者よりもっとえらい、あのアインシュタイン大先生も、「国家存亡」の先端研究だといってつけられた国家予算で、原爆を作ってしまったのでした。(続く)