負けてはいけないこの戦い

 (承前)「皇国の興廃この一戦にあり」。科学技術予算は「国家存亡にかかわる」ものであって、見直しなどされると「国際競争」に「日本は取り残される」らしいのです。しかもこの戦争に余裕はなさそうで、例えばスパコンで世界一をめざしてもおそらくなれないが、そういう意気込みでやらないと、2位3位にもなれない」、とのこと。そういえば、昔、戦艦大和を擁する連合艦隊司令長官山本五十六は、「米国にはおそらく勝てないが、いまなら短期的に一泡吹かせることができる」といったのでした。実際には、しかし、大和のような大艦巨砲はもはや時代遅れになっていたのですが。
 問題のスパコンについても、こういう意見もあるようです。
 「(前略)今では日本のコンピュータ産業は台湾やシンガポールにも及ばない。NECや日立が降りたのも、こういう時代遅れのコンピュータの開発にエンジニアを投入していては、経営が危うくなると考えたからでしょう。残った富士通が世界のどこにも売れる見込みのない高価なスパコンを開発することは、税金ばかりでなく人材の浪費であり、すでに瀕死の状態になっている日本のコンピュータ産業に、致命的な打撃を与えるでしょう。
 政府が「科学技術立国」をめざすなら、重要なのは理研のような恐竜型(つまり大艦巨砲=引用者)システムを延命することではなく、長崎大のような破壊的イノベーションを生み出すことです。そのために必要なのは、ITゼネコンに代表される日本の古い産業構造を壊し、新しい企業が未知の技術に挑戦できる環境をつくることです。そのためにも事業仕分けの結論のように、理研スパコン計画は、いったん立ち止まって根本的に考え直すべきです」。
(→引用元
 もちろん私は、スパコンなるものについてはからきし分かりません。また、先生方が問題にされているのは、スパコンだけではなく科学技術予算全般なのでしょうが、日本の科学技術政策を論じることなど全くできません。しかし、そんな私にも、先生方が、「血相を変えて」、わが「日本」が、戦争のような競争に勝ち抜くことを主張されておられる熱意は分かります。
 かのノーベル賞を受賞された先生方などというのは、世俗も国境も超越して、ひたすら研究に没頭されておられるのかと思いきや、日々、国の行く末国民生活の未来のことを何より第一に考えて下さっておられるのですね。
 世界一の豊かさ、には世界一の産業、には世界一の技術、には世界一の科学。もちろん研究者にしても、「産業開発を生み出す研究者」でなければなりません。「日本の資源は人材しかない。次世代の産業開発を生み出す研究者を切ろうというのは、日本が生きる唯一の道を閉ざしているとしか思えない」、というわけです。人材といっても、黙々と伝来の田畑を耕す人材や、信用第一と商いの道に励む人材などなどでは、全くどうしようもありません。科学者でもつまらぬ些事の研究者ではどうしようもありません。「産業開発を生み出す」人材にこそ、「国家存亡」がかかっているのです。
 ちなみに、人材の判定基準は何でしょうか。野球選手の場合は、やはりアメリカ大リーグで一軍登録を取れるかどうかでしょう。といいながら、大リーグへの流出は困るという矛盾があるわけですが。同様に先生方も、「このままでは研究者が海外に出てしまう」と心配しておられる一方で、米国で博士号を取る人が中国の20分の1、韓国の6分の1しかいない現状」を嘆いておられます。海外へ行けというのか行くなというのか、どないせえちゅうねん。いやいや、Uターンを期待しておられるわけですね。大リーグで認めて貰ってから日本プロ野球に戻ってこい。(続く)