政治利用される装置

 実際には、あれは天皇問題というより嫌中問題なんでしょうが、書き始めたので、もう一回だけ。
 もちろん、今回の件は明らかに「政治利用」です。しかし・・・
 自民党氏は、「政治利用だ、けしからん」と息巻き、歩調を合わせて大マスコミは、黒幕側のけしからぬ「政治利用」ごり押しVS宮内庁側の「政治利用させない」懸命の守備、という報道姿勢です。公明党氏は、この問題では自民に距離を置いて、日中友好のためだ、「政治利用には当たらない」と擁護したそうで、まあ黒幕寄り。
 一方、自民+大マスコミとは全く逆に、「政治利用している」のは宮内庁長官の方だ、という声もあります。例えばシンタロウ氏ですが、「(宮内庁が)皇室の行事を仕切ることで自分の権威を持たそうとするのは、ちゃんちゃらおかしいと思うね」、と。(16日毎日新聞)。
 基本的な立場はともかく、長官批判で同列なのが「日刊ゲンダイ」氏(14日)です。「大新聞はここぞとばかり大騒ぎだ」。「騒ぎをつくったのは羽毛田信吾宮内庁長官だ」。「官邸からのゴリ押しに負けたと、記者会見でペラペラしゃべり、平野官房長官からの電話内容まで公開。〜」。「ここまでロコツな官邸批判は歴代の宮内庁をみても異例。よっぽど民主党政権がイヤなようだ。「〜小泉内閣時代の05年から長官を続けている。〜自民党以外の政権なんて考えたこともないタイプですよ」(事情通)」。
 黒幕豪腕氏の(または大勲位氏の?)政治利用と、宮内庁長官の政治利用。政治利用合戦ですね。肝心なのは、しかし、応援団も含め両者とも、相手方が「政治利用している」のだと非難していることです。しかし、
繰り返しますが、この制度は、政治利用「される」ための政治装置です。シンボルは自発性も意志も持つことができません。アソウ氏がある日突如渙発を要請しようと、黒幕氏が突如会見を要請しようと、それを受け入れ「政治利用」される他ないのです。もちろん、政治利用への抵抗意志も意志であり、政治行動への抵抗は立派な政治行動ですから、抵抗してはなりません。意志をもつことを禁じられ、抵抗もできず、つまり人間扱いされずに、ただ「利用される」他ないというのは、誠に痛ましいことでありますが、そういう制度なわけです。
 どっちもどっちとはいえ、黒幕氏の行動は、内閣を通した政治利用です。しかし宮内庁長官の行動は、抵抗なき天皇の名で「抵抗」した、不遜かつ越権的政治行動です。シンタロウ氏らにそちらこそ「政治利用」だと指摘されることになったのは当然のことです。
 ところで、日本人の憲法学者も、どこかで発言しているのでしょうが、アメリカ人の政治学、法務の専門家が、「憲法秩序に反しているのは宮内庁」だと書いているサイトがありました。(Nothing Ventured, Nothing Gained.、16日)。下手な拙文より、分かりやすいと思いますので、要約紹介して、この件は終わりにします。(全体は上記をみてください)
 「中国が嫌いかどうか、民主党政権を支持するかどうか、小沢幹事長が好きか嫌いか、右翼的な思想か左翼的思想かなどは別として、法律論的に言えば、結論として、小沢幹事長の発言が正しいことは明らかです」。
 1)天皇の「親善外交は、憲法7条10号の「儀式を行うこと」に該当し(高橋p44)」、すなわち国事行為として、「内閣の助言と承認を必要とし、内閣がその責任を負う」。
 2)「象徴としての地位に基づく公的行為」だとしても、「公的行為についても、国事行為に準じて内閣の助言と承認というコントロールが及んでいる以上許容される」、というのが学説の多数説。
 「いずれの説にたっても、内閣の助言と承認がある以上、政治利用という批判はおかしな話です」。
 「つまり、宮内庁に助言と承認権限があるのではなく、内閣に助言と承認権限がある以上、それに従うのは憲法の要請するところであって、内閣が助言と承認として、中国副主席との親善外交を天皇にが行ったのであれば、問題は法律上一切ありません」。
 「〜自民党の議員、さらにはメディア等も、憲法の基本中の基礎知識すら欠如して、「政治利用だ」という批判をしていますが、天皇の親善外交は国事行為または〜国事行為に準ずる行為ですから、助言と承認行為を政治的利用と批判するのであれば、あらゆる天皇の国事行為および公的行為が政治利用で不適当ということになってしまいます」。
 「〜国事行為は形式的・儀礼的なものといっても、〜一定の政治性が帯びてしまうのは不回避的です」。「〜純粋な政治性のない国事行為なんてありえません」。
 「内閣の助言と承認に基づく、天皇の政治利用を止めろ」というのは、「国事行為そのものを行うな」という話になってしまい天皇の存在意義を否定することにつながりかねません」。
 「〜この国のマスコミはそうした憲法秩序等に対する知識を持たなければ、持とうともせずに、間違った情報と批判を垂れ流し、国民を扇動していると言っても過言ではないでしょう」。
 「話を今回の問題に戻しますと、〜民意の審判を受けていない宮内庁の官僚が、助言と承認権限を事実上独占してきたのがおかしな話なのです」。「換言すれば、憲法の規定する秩序に違反して、天皇を利用しているのは、宮内庁であると言っても過言ではないでしょう」。
 「なお、この問題について、揚げ足取りが得意な共産党の志位委員長は、「外国の賓客との会見は国事行為ではない」と小沢氏を批判しています。〜共産党はそもそも天皇制に極めて批判的ですし、〜天皇の親善外交そのものがやるべきではないという発想なのかもしれません。ただ、国事行為に当たるか、それとも国事行為に準ずる公的行為なのかという論争ははっきり言って何の意味もありません」。