2-15 開化と神経衰弱

 有名な講演内容については、改めて詳しく紹介するまでもないだろう。(原文→青空文庫。または、→こちら、の方が読みやすい)。
 現代の日本の開化は〜一般の開化とどこが違うか。〜私はこう断じたい、西洋の開化は内発的であって、日本の現代の開化は外発的である。〜
 日本の現代の開化を支配している波は西洋の潮流で、その波を渡る日本人は西洋人でないのだから、新らしい波が寄せるたびに、自分がその中で食客をして気兼をしているような気持になる。新らしい波はとにかく、今しがたようやくの思で脱却した旧い波の特質やら真相やらも弁えるひまのないうちに、もう棄てなければならなくなってしまった。〜一言にして云えば、現代日本の開化は皮相上滑りの開化であると云う事に帰着するのである。〜
 西洋人が百年の歳月を費したものを、〜わずかその半に足らぬ歳月で明々地に通過し了るとしたならば、吾人は〜一敗また起つ能わざるの神経衰弱に罹って、気息奄々として今や路傍に呻吟しつつあるは、必然の結果としてまさに起るべき現象でありましょう。〜
 どうも日本人は気の毒と言わんか憐れと言わんか、誠に言語道断の窮状に陥ったものであります」。「戦争以後一等国になったんだという高慢な声は随所に聞くようである。なかなか気楽な見方をすればできるものだと思います。〜我々は日本の将来というものについて、どうしても悲観したくなるのであります。

 講演の中で、開化の現状の例として、エレベータにも触れている。
 私は昨晩和歌の浦へ泊りましたが、和歌の浦へ行つて見ると、さがり松だの權現樣だの紀三井寺だのいろいろのものがありますが、其中に東洋第一海拔二百尺と書いたエレベーターが宿の裏から小高い石山の巓へ絶えず見物を上げたり下げたりしてゐるのを見ました。實は私も動物園の熊の樣にあの鐵の格子の檻の中に入つて山の上へ上げられた一人であります。〜まあ物數奇である。唯上つたり下つたりする丈である。
 ちなみに、「一等国」の「南海の工業地」に建てられた「東洋一」だとかいう「牢屋」の「檻」のようなエレベーターは、一般にも評判が悪かったのか他の理由によるのか、数年で解体されてしまう。