風評が頼り、か、も

 「レベル7」と認めるまでに1ヶ月、「メルトダウン」と認めるまでに2ヶ月。
 「情報は公開します」というのは、「即時全面公開」の意味ではなく、「都合のよい時に都合のよい情報は公開します」という意味であるようです。
 政府、東電は、どうやら次の二つの方針で動いています。
 (方針1)「絶対確実だと認められない」といえる間は、どんな重大な事態でも否定し続けるのがよい。「確実に起こっているという証拠はない」、「起こっていないと考えている」といっておけば、あとから嘘だと追求されない。
 (方針2)「パニックが起こるかもしれない」といえる場合には、どんな危険な状況でも「危険ではない、当面安全だ」と説明してよい。いやむしろ、そう説明すべきである。
 ということで、彼らは、メルトダウンが起こっているらしいと分かっていたにもかかわらず、起こっていないといい続けきたのでしたし、あるいはまた、校庭20ミリシーベルトは危険だと分かっていたにもかかわらず、当面安全だといい張ってきたわけです。
 その後、それぞれ訂正はされました。だが、重要なことは、これまでの自分たちの情報隠しは間違っていた、と認めたわけではない、ということです。
 「メルトダウンしていないといってきましたが、実はメルトダウンしていました。訂正します。ただし、しているだろうと分かりながら認めてこなかったこと自体が間違っていたわけではありません。絶対確実にメルトダウンだという証拠がなかったのです」。
 「20ミリシーベルトまで当面OKとしてきましたが、訂正します。実は危険性があるので速やかに対処します。とはいえ、当面OKとしてきたこと自体が間違っていたわけではありません。不安を助長しないように、当面安全だと説明してきたのです」。
 なるほど。
 すると、これまでも、今後も、こうなるわけです。
 例えば、ほんの一例ですが、こういう情報があります。(→ここ、→元記事=木村盛世5月23日
 「すでに3月30日に、放射能の危険に関する欧州委員会( the European Committee on Radiation Risk, ECRR )の学術部局長、スウェーデンのクリス・バズビー博士が発表した福島原発事故の影響に関する報告書では、以下のような結論と勧告が示されている。
 1.ECRRの危険評価モデル(危険率モデル)を、福島原発惨事から半径100キロメートルの範囲に住む300万人に適用した。これらのひとびとが1年間同じところに留まると仮定した場合、予測される癌増加数は今後50年で約20万人、そのうち10万人は今後10年以内に診断されることとなる。(中略)
 2.3.4.(中略)
 5.福島原発から100キロメートル圏内で、北西地域の住民は即座に退避し、この地域を危険区域(立ち入り禁止)とすることが求められる。
 6.(以下略)

 もちろん、これは一例であって、非常に深刻な見方をする専門家や機関は、国の内外に少なくありません。
 さて、どうなのでしょうか。事態はやはり、この報告書がいうほど、非常に深刻なのでしょうか。それともそうではないのでしょうか。
 いずれにしても、しかし、確実に明らかなことがあります。それは、上記(方針1、2)を優先させる政府や東電は、このような報告書を頭から無視する、ということです。
 確かに、仮に政府が、「報告書がいう内容は一概に否定はできない。従って、勧告を無視することはできない。たとえ絶対確実でなくても、万一の場合にもたらされる結果の重大性を考えると、起こるかもしれない危険を避けることを何より優先させる安全第一の方針に立って、300万人退避も検討すべきだろう」と、適切な対策もなく発表すれば、大きなパニックが起こるでしょう。
 しかし政府は、絶対そのような発表はしません。
 上記(方針1,2)に基づけば、こういうことになるからです。
 「そんな報告書は無視し、たとえ質問されたとしても内容を否定すべきである。万々一仮に、報告書がいうように、今後50年間に50万人の癌患者が増加する危険性があるのだとしても、今は、そんな危険性は絶対ないといい張ることが、<政治的には正しい>。なぜなら、われわれ政府にとって政治的な最優先事項とは、為政者が緊急に責任を負わねばならないような当面のパニックを避けることだからだ。万々一その報告書が正しいとしても、「今の300万人退避」が必要とする政治的負担は、「将来50年間で20万人発病」のそれより小さい。それに、将来起こるかもしれない事態は将来の政府の課題であって、われわれ現政府には、先のことは知ったこっちゃないのだ」。
 ご承知のように、国策原発の<専門家>というのは、もともと大抵、国策御用学者なのですから、国策とつるんだマスコミに登場し、このような政府の態度を後押しして、深刻な危険性を示す情報や勧告を、故意に無視したり否定したりします。
 そして政府はいいます。「政府公認の<専門家>の方々と連携して、私たち政府が、深刻ではない、安心してよいといっているのだから、それとは異なる情報や警告は、全て、いたづらに不安を助長する<風評>です。風評にまどわされてはいけません」。
 悲しいことに、私たちには「安心させてもらいたい」という気持ちがあります。というより、いくら何でも50万人の患者増などということは本当ではないことを祈りたい気持ちで一杯です。だから、すごく深刻な事態だという警告に対しては、いろんな意味で「聞かなかったことにしよう」という気持ちが働きます。そして、そんな警告は「風評」だという政府マスコミ御用専門家の合唱に流されそうになります。
 それでも、不安は消えることなく、したがって、様々な「風評」もまた、消えることなく拡がってゆくでしょう。