スイカ

 なんだか長ったらしい名前の党になるとかならないとかいう噂ですが、それならいっそ、「脱官僚どころか内政は財務省の外交は外務省つまりは国務省のいいなり傀儡政権の公約全面裏返しにあきれ、かといって旧に帰るのでは元も子もなく、新に変えると叫ぶ大阪の人はやたらファッショく、その他諸々は小粒無力で、その点脱官僚で脱アメで脱原発で脱増税はいいのだがさりとてあの旧顔じゃなァと、解散を熱望しつつイザ選挙となると支持する党がなく実に困ったとぼやいている諸君はぜひとも投票してください党」、にでもして投手交代でベンチに下げればどうでしょうかなどと、暑苦しい妄想の昨今です。
 とはいえ、季節の方はそろそろ梅雨明けも近く、スイカが店頭に並びはじめています。スイカのカは、瓜、果のカ(クヮ)でいいとして、「西の瓜」と書くのは、西日本が産地だからかと思ったら、中国に西域から伝わったというのが語源だそうで、でも気持ちの上では、water melon の「スイ」だと思いたいですね。
 ところで先日、たまたま「日本語という外国語」という新書に目がとまりました。著者荒川洋平氏はその道の大家らしい方だのに、これまでは、「日本語」と「荒川洋・」という背文字が目の端を通過する度に、片桐ユズル氏の類推で洋治氏かと思っていて、今回本を抜き出してはじめて、実に失礼な誤解をしていたことに気付いたのですが、立ち読みパラパラした所(二重に失礼ですね)、真ん中あたりで「スイカ」という語が目にとまりました。
 日本語には、「単語のひらがな2文字目、つまり2音目で、必ず上がるか下がる」というのが「ルール」だということで、「西瓜」は「す」から「いか」へと上がり、「suicaイカ」は逆に「イカ」へと下がる、と説明されていました。なるほど確かにその通りで、有名なアクセントのルールというか原則ですね。
 しかし、ちょっと問題がなくはありません。
 昨今はあのNHKでも地方語に気を使っていますが、お上でも同様で、例えば先年の文化審議会答申「敬語の指針」という文書などでも、例えば「おっしやいますか」を単純に規範化するのではなく、文化庁の調査を基に、西日本ではむしろ「言われますか」の方がより多く選ばれると指摘しています。ちなみにこの答申に至る作業の中心メンバー阿刀田高氏は、東京生まれながら、高校の途中までは東京ではなく、疎開したまま父君の出身地宮城県に住んでいたようです。
 で、スイカに戻りますが、この語もまた、全国一律ではありません。スイカsuicaに当たるイコカicocaの発音は知りませんが、スイカは、西日本と拡げていいかどうかは知りませんが関西では、「ス」から「シカ」へ、上がりもせず下がりもしないと思います。ということで、「単語の第1音から2音へ必ず上がるか下がる」という先のルールは成り立たないのではないでしょうか。もちろん、関西語は日本語とは別の言語だという学者の方もおられますから、その立場に立てば、「第2音上下は<日本語>のルール」でいいわけですが。もし日本語を広く捉えるなら、ルールはむしろ、「日本語には単純上下のアクセントがあるが、どこで上下するかはまちまちで、それでもどうということなく会話ができる」とでも、していいのではないでしょうか。
 そういえば、先日、その面での名作「カラタチの花」に言及したような気がします。1番の「花が」では2音へとあげ、2番の「針は」では2音へと下げるというところがミソでしたが、こんな折角の苦心も、地方によっては「何が何だか」(ナンシー関)というわけです。
 そういえば、ナンシーの評伝が出ましたね。「良くも悪しくも」同時代的ではない、でも丹念なジャーナリストの手になる伝記でした。