「楽しい」時代5

 伝書鳩の楽しさを語る青年にスマホを示したり、ゴルフ談義で盛り上がる紳士に環境破壊の話を振ったりするのは、野暮でもあり失礼でもあるでしょう。趣味談義は楽しさが一番。大山氏も、「批判的に臨むのではなく、あっけらかんと「なんでモールに行くとワクワクしちゃうんだろうねえ」といった自分たちの欲望を否定しない態度をとることができた」ので楽しかった、と書いておられます。
 しかし東氏は論客ですから、例えば、ホームレスを入れないというと、ショッピングモールは社会的弱者にやさしくないなどと批判する輩もいるかもしれない、といったことが気になるのでしょう。大山氏から、それ「あまり面白い話にならなさそう」では、といわれますが、いや「ショッピングモールが弱者を排除しているという単純な図はおかしい」と、やはり昔ながらの商店街を仮想敵にします。「商店街が老人や障害者にやさしいといわれますよね。でも逆にそれは、子育て世代やニートにはキツイ環境なのではないか」。むしろ「弱者に一番やさしいのがショッピングモール」だといえる。モールこそ、「社会的弱者にやさしい空間を実現している」、と。
 確かに、ショッピングセンターやスーパーでも、ちょっと大きい店では、入り口に車椅子が用意されており、通路も広くて、車椅子でショッピングすることができますが、近所の買い物客でごった返す横丁商店街などでは、「ベビーカーを押して」買い物する「社会的弱者」には行きづらい。
 あるいはまた東氏は、海上モールともいうべき「カリブ海クルーズ」に行かれたそうですが、それについても、(豪華船によるカリブ海クルーズなんて富裕層や社会的強者の娯楽ではないかという輩がいるかもしれないが決してそうではなく、)高齢者、障害者、肥満者など、「社会的弱者がすごく多」かった、といいます。
 「社会的弱者」という語はいろいろ使えますから、ドレスアップして散歩するセレブの若奥様でもベビーカーを押している点では弱者ですし、飛行機はファーストクラスしか乗らない金持ちでも高齢者である点では弱者です。カリブ海クルーズやディズニーランドやショッピングモールでは「社会的弱者」を歓迎してくれ、やさしく応対してくれるようで、大変結構なことです。多分それは、「お客様は神様です」ということが徹底されているということなのでしょう。つまり、旅行したり買い物したり入場したりしてお金を使うことが、やさしくしてもらえるための絶対条件であって、そういったお客様神様が安全に楽しめる空間では、ホームレスなどは「やさしくしてもらえる社会的弱者」に数えてはもらえないのです。「弱者に一番やさしいのがショッピングモール」だというのは、そういうことでしょう。(続く)