アジア1

 米北対話、森友問題、内外ともに何かが起こる気配ですが、どうなるでしょうか。
 戦前自衛隊による中国侵略の合言葉は「暴支膺懲」つまり「暴戻支那ヲ膺懲スベシ」ということでした。「けしからぬ中国を懲らしめよう」ということですね。
 「懲らしめる」といえば、テレビで創られた「副将軍」は、自分では何もせず、手下の強い助さん格さんに「懲らしめてやりなさい」というばかりでした。一方今将軍は、アメリカ様の手下ですが、やっぱり自分では何もせず、強い親分様に「けしららぬ北を懲らしめてやってください」というばかり。韓国大統領が、事態の平和的打開に向けて自ら積極的に動く姿とは、比べようもありません。
 しかし、よくいわれるように、為政者と国民は見合っています。思えば韓国では、「お友だち」を側近にしお友だちに便宜を図った前大統領の「政治の私物化」に対して、国民が怒りを爆発させ、退陣させて裁判にかけました。一方海のこちら側では、同じく「お友だち」を側近にしお友だちに便宜を図った首相の「政治の私物化」に、私たち国民はさして怒らず、「悪いのは忖度した下の者らじゃ」と罪を押し付けて頬かむりする夫妻にはさすがに多少眉はひそめても、退陣させず証言もさせず、居座り続けるのを許しています。これまた比べようもありません。
 さて、中島岳志氏の『アジア主義』という文庫本を読みました。『潮』での連載をもとに出された単行本の文庫化(潮文庫)ですが、600ページの大著です。 
 いつものように、話が脱線しますが、「中島岳志」で検索すると、貴乃花親方についてのツイッター発言が出てきます。「貴乃花親方が千秋楽打ち上げのスピーチで「日本国体を担う相撲道の精神」という言葉を使っている。直後に天皇陛下の書に言及しているので、「国体」というを意識的に使っていることがわかる。現在の騒動が、危うい思想闘争に発展することを懸念する」。
 知りませんでしたが、確かに、貴乃花親方はこんなことをいっていますね。「日本国体を担う相撲道の精神、相撲道の精神とは、角道と言います。」「私どもが相撲協会教習所に入りますと、陛下が書かれた角道の精華という訓があります。これを見て、いちばん最初に学びます。〜この角道の精華に嘘つくことなく、本気で向き合って担っていける大相撲を。」「国家安泰を目指す角界でなくてはならず“角道の精華”陛下のお言葉をこの胸に国体を担う団体として組織の役割を明確にして参ります」。
 おいおい。
 一連の騒動は、天皇にまつろわぬ外国人力士の「暴戻」を許して来た相撲協会を「懲らしめ」、「陛下のお言葉をこの胸に」、協会を「国体を担う団体」に変えて行く、ということだったのですか。
 中島氏はいいます。「貴乃花親方の一連の行動に、どうしても1930年代の青年将校のような「危うい純心」を感じてしまう。「国体」に依拠した大相撲協会の「改造」が行動の目的なのだとしたら、危うい」。「貴乃花親方にとって、貴ノ岩は「日本国体」に従順なアジア人という位置づけなのだろうか? 逆に白鵬などを「日本国体」に馴化しない存在とみなし、「相撲道の精神」からの逸脱と見なしているのだろうか? だとしたら、最悪の形のアジア主義リバイバルだ」。
 というわけで、中島『アジア主義』ですが、何しろ大著ですので、先ず、トーハンらによる「BOOK」データベースの紹介文を挙げておきます。
 「戦後、侵略主義の別名として否定された「アジア主義」。しかしそこには本来、「アジアの連帯」や「近代の超克」といった思想が込められていたはずだ。アジア主義はどこで変節したのか。気鋭の論客が、宮崎滔天岡倉天心西田幾多郎鈴木大拙柳宗悦竹内好らを通して、「思想としてのアジア主義」の可能性を掬い出そうと試みた大著。」
 帯に、「橋爪大三郎氏絶賛!」とありますが、私も、さしあたり一読絶賛というにやぶさかではありません。とにかく分かりやすい本です。ただ、ほんとはなかなか難しい。(続く)