夏の風景5

 無人駅ではなかったようだ。蝉の声を聞きながら、形だけの改札口を通ると、駅舎の陰に駅員がいた。
 しゃがんでいるが、別に草むしりをしていた風でもなく、顔をあげると、曖昧な笑顔を見せて立ち上がった。足下に眼をやった私が、「ああ、珍しいですね。蟻地獄ですか」、というと、「なかなか通らないもんで・・・」、といって時計を見た。
 電車のことをいったのかと思ったが、もしかすると、近くの蟻をつまんで投げ入れたことの言い訳をしたのかもしれない。詮索するほどのことではないので、「ひとりで大変ですね」、といってみると、ホームを見渡しながら、「ま、草ひき要員みたいなもんですわ」と笑った後に、「事故もありましたのでね」、とつけ加えた。「駅でですか」、と聞くと、「2年前に、そこで・・・」と、これから私が渡ろうとしている場所を指さした。
 
 (庵主敬白:2ヶ月あまり、毎日更新をしてきましたが、しばらく夏休みとさせて頂きます。ただし、少なくとも週末には更新するつもりですので、よかったら、またご訪問ください。)