夏の風景4

 歯医者に行った。ちょうど1年前に同じ女医に診てもらった時、とにかく歯は長く大事にしないといけないから、最低一年に一度は来るように、といわれていたからである。
 ひとわたり歯石をとってくれてから、「親不知が傾いて来ていますね。舌に当たって困るというようなことはないですか」、と聞かれたので、いいえと答えた。すると、「親不知はどうなってもいいですが、虫歯になっていて隣の歯にうつるといけないので、抜きますかね。どうしますか」、という。去年とは言い方が違うのに戸惑いながら、「え、抜いた方がよいのですか」と聞くと、「それを、レントゲンで調べてみましょう」と、小さいフィルムを噛まされた。最近は椅子に座ったまま簡単に撮せるようで、やがて現像ができた。だが結局、親不知も隣の歯も、別に何でもないらしい。抜歯点数がフイになって申し訳ないが、もちろん私は助かった。
 どうやらこの歯医者も変えた方がよさそうだと思いながら、照り返しのきつい外に出ると、道の向かいに古本屋の看板が見えた。昔からそこにあったことは知っていたが、今の時代、とっくに廃業したと思っていた。だが、瓦の庇に大きな葦簀を立てかけてあるのも記憶のままである。
 道を渡ってみようかと思ったとき、葦簀の陰から、中年の男が出てきた。見ると、手に小さな籠を提げていて、どうやら小鳥が入っているらしい。男は止めてあった自転車にまたがり、片手でハンドルを握ると、器用にペダルを漕いで行ってしまった。
 私は、道を渡るのをやめることにした。