白洲次郎という人(14)

  *W=「(1945)年には憲法改正問題で、佐々木惣一京都帝国大学教授に憲法改正の進捗を督促する。昭和21年(1946年)2月13日、松本烝治国務大臣が中心として起草した憲法改正案(松本案)がGHQ/SCAPの拒否にあった際に、GHQ/SCAP草案(マッカーサー案)を提示されている。次郎は2月15日にGHQ/SCAP草案の検討には時間を要するとホイットニーに宛てて書簡を出し時間を得ようとするが、これはGHQ/SCAPから不必要な遅滞は許されないと言明される」。
  「監禁して強姦されたらアイノコが生まれたイ!」(GHQによる憲法改正案を一週間缶詰になり翻訳作業を終え、鶴川の自宅に帰ったときに河上徹太郎にはき捨てた台詞)」

 「いよいよ憲法問題ですか。でも先ず、後半の私語は聞き捨てにできないですね。もしかしてあなた方は、下品なだけでなく実に差別的なこんなことばを、「カッコいい」と思うのですか。理解に苦しみますね。
 しかし、それを別にすれば、前半に書かれていることは事実でしょう。准将からの返事を、私がタイプしたのじゃなかったでしょうか。その手紙でも、准将は、ミスターシラスが「慇懃沈黙の抵抗」ではなく「率直(frank)」に、言い分や要請を伝えてくれたことを評価しながら、その要請に対しては、こちらも率直に明確な拒否を表明している筈です。もちろん要請とか許諾とかいったことは、基本的に日本政府とGHQの間のやりとりであって、ミスターシラスの仕事は、それらを窓口仲介することだったに過ぎませんが、だからこそ准将は、仲介担当官であるミスターシラスの率直さを評価したのです。(→ここ
 でも、あなた方は、これだけのことから、結局、おハナシを作りたいのでしょう? つまり、GHQ憲法を「押しつけ」、「日本人や日本政府」がそれを「従順」に受け入れたが、でもミスターシラスは、ひとり「押しつけ」に抵抗した、と。・・・それは、ハイスクールの授業でも使えない程度の、単なるおハナシですね。いや、日本語の慣用句でいえば、「おハナシにならない」ですか(笑)。
 でも、別の意味では、このおハナシは、ひとつのメッセージを含んでいます。すなわち、現行憲法は押しつけられたものであり、サムライの意思を継いで改憲すべきだ、というのがそれです。
 しかし、実際には、当時の憲法をめぐる経緯は、「押しつけ」とひとことでいえるほど単純なものではありません。そのことについては、思い出話ではなく、別の立場でお話した方がよいでしょう。