地元中国

 「地産地消」ということばがあります。この概念あるいはこの運動は、いろんな側面をもっていますが、最も単純なところでは、「フードマイレージ」といわれる食糧輸送コストのことがあります。地域生産地域消費の場合には、輸送コストがかからない。だから安いわけです。いまスーパーなどの野菜売り場では、近隣産野菜のコーナーがあったりしますが、確かに安いですね。
 しかし、それと並んで、どころかある場合にはそれ以上に安いものに、中国産野菜があります。つまり、中国という国は大変近い。隣県よりも近い、どうかすると隣町よりも近いようです。こうなると、私たちの地元は中国だ、といってよいでしょう。
 このことが発見されてから、街の様子も随分変わりました。例えば、かつてはちょっとした町の企業では、事務所のすぐ裏手に工場があったりしたわけですが、中国がえらく近い、というよりここは中国だということになると、工場を地元中国に置けばよいことになります。その方が輸送コストがかからずコストが安いのですから、目先のきく経営者は、当然地元中国に工場を建てます。例えば社長が工場長に用があるときは、以前ならわざわざ事務所から出て、裏の工場まで行かなければなりませんでしたが、いまは携帯をポケットから出せば、地元の工場長と、すぐその場で話せます。
 それに、隣町に住む日本人の工員は、若造でも車で通ってきます。しかし中国人は地元ですので、大抵の人が車などは使いません。タコ社長からしてみれば、車の購入費や維持費まで払ってやらねばならない隣町の若いのを雇うよりは、地元の中国人を雇った方が賢明だということになります。
 安い物を買うと首を絞めるといいますが、しかし「地産地消」です。消費者は、地元中国の安いものを買うのが当然。社長は工場を地元中国に建てたり地元の中国人を雇うのが当然。 
 中国での自動車販売台数がアメリカを抜いて世界一になったとニュースにあるように、世界の遠近関係は絶えず流動しているようです。でも、まだしばらくは、タコ社長は、車で通って来なければならない隣町の若者よりも、車不要の地元の中国人を雇うでしょう。隣町の若者は、車のローンが大変で、安い地元中国野菜を食べているということですが、いずれ車も中国製に乗り換えるかもしれません。将来も買うことができればの話ですが。