帝国の慰安婦/安堵の共同性2

 侵略者、加害者とされてきた歴史を<終わり>にするために、強調されたのは、「和解」であり「合意」でした。広島で「和解」、真珠湾で「和解」、韓国と「合意」・・・
 ところで、もはや忘れられようとしていますが、昨年、いくつかの事件がワイドショウを騒がせました。男が数年間にわたって女子中学生を監禁していたという事件、医大生が部活と称して女子学生を集団レイプしたという事件、俳優がホテル従業員を部屋に引き込んでレイプしたという事件。いずれも女性が被害者だということだけが共通点ではありません。加害者だとされた男たちがみな、「合意」と「和解」を言い立てたのでした。
 「外に出ようと思えば出られた。監禁ではなく合意で家にいたのです」(監禁男)。「当事者学生からの聞き取り調査をしたが、合意のないレイプであったということは確認できなかった」(医大当局)。「示談になりました。合意の和姦です。」(俳優男)。
 最後の事件は、逮捕されたのが有名女優の息子だったということで大きく取り上げられたのでしたが、有名女優が依頼したのか、類似事件では辣腕で通る弁護士事務所に所属する女性弁護士が、早速「被害者」に張り付いていたと報じられ、案の定「示談、不起訴」となったとたんに、釈放された俳優は一転「合意」があった「和姦」だったと言い立て、被害者女性が反論し、と週刊誌を賑わせたこと、ご承知のとおりです。
 記事も読んでいないので、分かりません。しかし、もし私が女性弁護士なら、多分、こんな風にいったでしょう。
 「ほんとに大変なことでしたねえ。私はあなたの味方です。よく分かります。刃物を持っていたわけでもなく、「殺すぞ」といったわけでもなかったのですよね。それでも、どうにもできなかった。家具を蹴飛ばし、電球を割り、シーツを破り、噛みつき、引っかき、殴りかかり、蹴飛ばした、命がけで抵抗したのか、なんていうのは、無責任な人のいうことです。突然、お客様である男の人から、思いもかけなかった強引な行動に出られたら、誰もが、身体がすくんでしまいます。ベッドに引き込まれ、もはや逃れられないということになってしまったら、絶望のあまり、頭が真っ白になり、憎しみの感情さえも消え、力も抜けてしまいます。それが普通です、誰でもそうですよ。あなたもそうでしょう。そうですよね。解放されてからも、あなたは、すぐに大声を上げ、自分で110番したりはしなかった。相手への怒りよりも、とにかくその場から逃げたかったのですよね。分かります。私はあなたの味方です。ほんとに大変でしたね。できるだけ高額の示談金をとれるように、依頼人に強くいいます。約束します。」
 「でも、もちろん示談を強要はいたしません。示談に応じないで告訴するのは、あなたの自由です。ただそうなると、個人的に同情はしても、私は被告側の弁護士として、いまお聞きしたことを、大勢の人のいる法廷で、あなたに問いつめる仕事をしなければなりません。あなたは、歯でも爪でも手でも足でも、最後まで身体的に抵抗しなかったのですよね。ある時点で、憎しみの感情も消え、力を抜いたのですよね。受け入れたのですよね、と。」
 加害者とされる側が何よりほしいのは、「合意」であり「和解」であり、責められることを終わらせることであり、互いに忘れ去るという「決着」です。そのためには、たとえ10億円の示談金でも。続く)