アジアあるいは義侠について32:失敗と目的

 第二点。[説得]は成功するか/失敗するか。そして、失敗した場合には[何もしない]で引き下がるのか/それとも[アタック]に向かうのか。どちらでしょうか。

●板垣は 、  西郷は説得に失敗し、出兵することになると<期待>
●大久保らは、西郷は説得に失敗し、出兵圧力が高まることを<危惧>
●西郷自身も、自分は説得に失敗し、殺される、とまで板垣に書く。

 しかし、毛利説によれば、板垣宛私信は<策略嘘>だったということになります。とすれば、

●板垣も大久保らも、説得は<失敗>し、出兵に向かう、と同じ見通し
●ひとり西郷だけは、説得は<成功>し、出兵はなくなる、という考え

だったのでしょうか。
 西郷はかつて、明日にも江戸に突入する構えの強力な軍勢がバックにあったからこそ、単身談判に向かったのでした。今回も政府の高官で海軍大将の自分が単身「未開国」に乗り込めば、「おいどんば殺せば大軍が来っど。きさん国なんひとたまりもなかぞ」、かどうか全く口調はおかしいですが、そんなことをはっきりいわなくても、相手はビビってこちらの要求を飲む。だから板垣宛私信は<大嘘>で、出兵には至らないと思っていたのでしょうか。つまり、こういうこと?

●板垣は西郷に騙され、出兵を実現するために、西郷案に賛成する。
●西郷は板垣を騙して、出兵に期待させて西郷案賛成にまわらせた。

 しかし、そうだとすれば、西郷はいったい、そういう策略行動を、何のためにしたのでしょうか。