空気について 10

 しかし、どうもそう単純ではない。
 頑張っている俺たちでさえ沈みつつあるのだから、お前らが貧しく辛い境遇にいるのは当たり前だろう。と冷たく突き放しているだけでは多分ない。
 「在特会」の「特」は「特権」である。
 「生活保護のうちってさー、病院代がタダなんだって?」「いいよなあ。働かずに金もらえるんだ。その上、病院代もタダかよ。うちなんてさ、(両親とも働いてすごく大変なのに)がっつり治療費、とられるぜ」「生活保護の家って、ぜったい得だよな。」(安田夏菜『むこう岸』)
 「あの連中が原発避難民ですよ。たまたま住んでいた地域が指定されたというだけで、この町に来てタダで家を用意してもらってね。高額の補償金で、ぜいたく勝手な暮らしをしているんですから。まるで特権階級ですわ。」(赤松利市『藻屑蟹』が手元になく、記憶だけの丸きりの捏造文)。
 ホリエモンは、「12年間勤務して手取りの月給が14万円だという会社員」を「オワタ」というが、その「特権」を、正規の月収「30万円」が羨み指弾することもありうるわけである。「14万というけどね。こっちは夫婦の他に、寝たきりの年寄りと金食い大学生、飯食い高校生あわせて5人が、30万そこそこで食ってんだよ。年寄りとガキには部屋があり妻はリビングを占領していて、俺がため息をつけるのはトイレだけ。陽が差さなかろうが古かろうが、ワンルームを使えるなんて贅沢じゃないか。それなのに所得税がタダかよ。」
 もちろん、14万というのは、特異例ではない。「5年前に離婚し、女手一つで小学2年の長男(7)を育てる盛岡市の女性派遣社員(39)がため息をついた。フルタイムで働いても手取りは月14万円」(「河北新報」記事)。(続く)