単純な戦争が喝采される

 まあ、そうは書いたが、何もガンジーのような非暴力抵抗から一歩も踏み出すべきではないというつもりはない。いや、「平和教育は間違いだった」なんて生意気をいう子どもには、ガンジーの伝記でも読めと勧めたいが。それでも、正直いってガンジーより例えばチャンドラボースの方が、マンガやアニメではヒットするだろう。ムッソリーニヒットラーも東条もスターリンも利用して、とにかくイギリスとの独立戦争を闘い抜こうとした波乱万丈の戦争マンガ。

 しかし、ドラマを書く時困るのは、「早く解決してくれ」という、せっかちな読者、観客だ、と町田康がいっている。

 「ドラマの中で悪人が悪人なのは悪いことをするからで、善人が善人なのは善いことをするからである」。「悪人は何の説明もなく絶対的悪として登場。同じく善人は絶対的善として登場する」。「もちろんこれは現実とはもってもかけ離れている。なぜなら、現実においては、絶対善や絶対悪は存在しないからである。しかし、もっとかけ離れているのは、問題の解決の仕方で、現実の問題は、そんなに簡単には解決しない」。ところが、「こらえ性のない観客はつねに事態の早い解決を望むので」、「一気に問題を解決して」ほしい。「すなわち、絶対的善である英雄はさしたる説明もなく悪人を殺してしまうのである」。で、「一般的な観客は、これに喝采を送」る。(「ちょっと思ったこと」<「おそれずにたちむかえ」)