素人政治で排除

 「思いついたのですがね、高校の授業料を無償化したら、みんなが喜び、人気が出るでしょうね。」
 「はあ、それはいいことですね。・・・もっとも、高校へ行かない子ども、行けない子どももいますので、厳密にいえば<みんな>が喜ぶ、ということではないですが。」
 「いまや20人に19人は高校生なんですから、みんなですよ。高校はみんな無償化ということで、記者会見で発表します。」
 「えっ、すぐ発表ですか。ちょっと検討しないと・・・」
 「いや、みんなが喜ぶことですから、早い方がいいです。問題ないでしょう。」
 「私学はどうするかとか。金持ちで私立高校の学費なんか問題にならないという家庭も含めるのかとか・・・」
 「友愛ですから区別なし、所得制限なしです。公立は無料。私学も支援金を出せばよいでしょう。とにかく、事実上高校は無償、と単純にゆきましょう。」
 「念のためですが、私立の支援は高校生だけですね。中卒で職業訓練の学校へ行ってるとか、板前修業をしているとか、そういうのは除きますね。」
 「高校です。高校生はみんな事実上無償。単純明快な方が人気がでます。」
 数日後・・・
 「原案を作りました。高校だけに限る、ということになっています。各種学校などは除く、ということでしたよね。」
 「そうですそうです。」
 「こういう文言にしました。これで、例えば美容師養成学校とかアメリカンスクールなんかは適用外ということになります。」
 「ええっ、ちょっちょっと、ちょっと待ってください。それは気が付かなかった。アメリカンスクールの除外はダメです。もちろん支援対象にしてください。」
 「法的には各種学校なんですが、じゃ、アメリカンスクールのようなナショナルスクールは、高等学校と同じ扱いで無償、ということですか。」
 「そうですよ。アメリカンスクールは当然高校並みに扱わないとまずいですよ。危ないところだった。」
 また数日後・・・
 「案を修正して来ました。先日お話しのように、ナショナルスクールは、高等学校と同じ扱いで、無償になっています。アメリカンスクールとか、朝鮮高校とかですね。」
 「ええっ、ちょっちょっと、ちょっと待ってください。それは気が付かなかった。それはダメです。朝鮮学校はダメです。それは除外してください。」
 「お言葉ですが、ナショナルスクールには、朝鮮高校も含まれます。もし除外なさりたいなら、元に戻って、学校教育法でいう高等学校だけにすればいかがでしょうか。アメリカンスクールに通うのは、外国人か金持ちの日本人ですし。」
 「いやいやいや、それはダメです。アメリカンスクールは入れないとまずいです。」
 「でも、民族学校をOKにしながら、朝鮮高校だけ除外というのは、筋が通りませんが。朝鮮高校は、現に大学進学とかスポーツとかでは高校扱いしているのですから。」
 「いや、北朝鮮はダメですよ。北朝鮮は制裁対象ですかね。援助すると政治問題になります。記者には除外ですといっておきますから、その線で理屈を考えてください。」
 「まあ、それが政治判断なら従います。朝鮮高校支援は北朝鮮支援になるからまずい、朝鮮高校を制裁するのだ、ということですね。」
 「あ、いやいや。そういういい方は人聞きが悪い。政治的理由で除外するのではない、という理屈を考えてもらわないと困ります。」
 「う〜ん、難しいですねえ。政治的にまずいから、朝鮮高校だけ除外する理屈を考えて、さらに、でもこれは政治的理由による除外ではないのだという理屈も考えるわけですか。」
 「屁理屈でもコジツケでも、何でもいいのです。とにかく、政治的理由ではないが朝鮮高校だけは除外になるような理屈を、無理にでも作ってください。」
 またまた数日後・・・
 「ご苦労をかけましたね。お陰で、朝鮮高校除外でスタートできました。それにしても、保留して調査する、というのは名案でしたね。除外せよといわれても除外をはずせといわれても、どっちにも、調査検討中ですといっておけばよいのですからね。
 「そういえば、国連の人種差別撤廃委員会の方で、朝鮮学校の除外は差別だと、問題になっているようですが。」
 「そうなんですよ。困ったことですね。国連だけならいいのですが、人権人権のアメリカから何かいわれると、除外を取り消さないといけませんからね。」
 「アメリカに楯突くことはできませんよね。」」
 「とにかく様子を見ましょう。4月以降検討するということにしおいて。最終的には朝鮮高校除外を続けるのか取り消すのか、どっちともとれる発言しておきましょう。
 「なるほど。友愛というのは、「困ったときは様子見」ということですからね。それでますます困ることにならないですか、基地問題みたいに。だんだん騙されなくなりますよ。」
 「え? 何かいいましたか。ま、しかし、朝鮮高校だけは様子見しておくとしても、他の高校生については、みんな一人残らず恩恵を蒙るわけですからね。みんなから感謝されて、人気がUPということになるでしょう。このところ人気がガタ落ちなので、これで少しはね。」
 またまたまた数日後・・・
 「あの〜、実はですね。朝鮮高校は除いて、高校生については、みんな一人残らず恩恵を蒙る、ということでしたね。」
 「そうそう。みんな喜んで人気UP、とゆきたいのですが。」
 「そのことなんですが、高校生はみんな一人残らず恩恵を蒙る、というわけではないことが判明しまして・・・」
 「だから、朝鮮高校のことでしょう。それは、調査中ということにしておけばいいんです。国交回復しないと調査が完了しないって理由をつけてず〜っと保留のままゆけますし、万一国連とかアメリカとかから差別だと強くいわれた場合は、その時点で調査できたっていえばいいですし。」
 「いえいえ、朝鮮高校のことではなくて、日本の高校生でも、却って負担増になる場合があるのです。」
 「えっ、どういうことですか。朝鮮学校以外は、公立私学共に、高校はもちろんアメリカンスクールも無償化、金持ちも誰でも残らず無償化、ということでしょう。朝鮮高校を除けば、高校生はみんな、一人残らず恩恵を蒙るじゃないですか。」
 「ところがですね。高校無償化に伴う税優遇の廃止によって、同じ高校生でも、定時制高校や通信教育高校、それにフリースクールなどの生徒の場合は、却って負担が増えるということが分かりました。」
 「昼間働いて定時制高校に通う高校生なんか、いまどきいるんですか。」
 「世の中には、母親から億単位でお金をもらう人もいれば、母子家庭で定時制にしか行けない子もいるんですよ。」
 「でも、貧乏な家庭には、他でもいろいろ援助してるわけですから。それにしても、どうして、そういうことは最初に・・・」
 「だから、ちゃんと検討してから、と申し上げた筈です。」
 「とにかく、もう決めたのですから。」
 「所得制限なしで、金持ちも負担軽減になります。」
 「いいことですね。友愛だから区別なしです。」
 「ただし、貧しくて定時制で学ぶ高校生のいる家庭は負担増になります。」
 「仕方ないですね。でも極く少数ですからね。」
 「アメリカンスクールは支援対象になります。」
 「いいことですね。友愛だから外国人も区別なしです。」
 「ただし、朝鮮高校は当分除外です。」
 「みんな北朝鮮が嫌いだから、それでいいんです。」-