戦争したい

 半年間空けてしまいましたが、その間つくづく思い知りました。多くのみなさんは、やっぱり、戦争が好きなんですね。
 「すぐに戦争しようというわけでもなし、景気も悪くなし」というわなのでしょうか、憲法を空洞化し「集団的自衛」をごり押しする政府与党の支持率がさほど下がりません。「多少強引かもしれないが、とにかく、けしからん隣の大国が目に余る。アメリカと一緒にガツンと一発やれるようにしておくというのは、まあ必要だろ。この際、少なくとも、戦争ができる国にしておくべし」。戦争ができる国、戦争するかもしれない国、戦争する国に。
 ・・・やっぱり、みなさん、戦争が好きなんですね。といっても、自分や自分の家族が殺し合いに参加したいというような人は少数でしょうから、どこか人ごとなのでしょうけれど。人ごとの武力行使、人ごとの戦争なんてものが、世の中にあると思っているのでしょうか。
 「集団的自衛権」ですか。大体しかし、「これから侵略するぞ」といって戦争を始める国なんてありません。(国連の武力行使を別とすれば)、国際法上、ある国が戦争をすることができる理由は二つ、「自衛」と相互安保条約を結んだ国との「集団的自衛」です。どんな国も、「自衛」と「集団的自衛」以外では戦争はできません。で、戦争するときは、どんな国も、「自衛」と「集団的自衛」を理由に戦争するわけです。
 かつてわが国は、戦争放棄、軍備放棄を掲げて再出発したのでした。けれどもやがて、「自衛」ならOK、「自衛隊」ならOKとなりました。そしていま、「集団的自衛」の武力行使もOKに。これで、他の国同様、晴れて、いつでも戦争できる国になるわけです。戦争ができる国、戦争するかもしれない国、戦争する国に。
 何百万人の命を奪った、悲惨極まりないあの戦争がどのように始まったのか、多くのみなさんは、どうやら忘れてしまったようです。それとも、知らないのでしょうか、忘れたふりをしているのでしょうか。
 (1)「暴支膺懲」
 15年にわたる戦争の前半、中国大陸での戦争スローガンは「暴支膺懲」でした。
 時の首相は、特に好戦的な人物だったというわけではありませんが、蘆溝橋事件に際して、強気で声明します。わが国は「夙に東亜の永遠の平和を冀念し、日支両国の親善提携に力を」尽くして来た。ところが、けしからんのが中国政府だ。「排日侮日」キャンペーンで国論を煽り、「政権強化の具に供し」ている。自国の力を「過信」して、わが国の実力を「軽視」し、「反日侮日兪々甚しく」、わが国に敵対しようとしている。そんなけしからん中国に対して、これまでわが国は「隠忍に隠忍を重ね」、「努めて平和的」な態度に終始してきた。しかし、わが国を「軽侮し不法暴虐」至らざるない中国に、「最早穏忍其の限度に達した」。もう我慢できない。けしからん中国の「暴戻を膺懲し」、「反省を促す為、今や断固たる措置をとるの已むなきに至れり」。
 そうだ、とマスコミが叫び国民が叫び、その声が戦争拡大を後押ししたのでした。「暴支膺懲だ!」、「中国がけしからん」「けしからん中国を懲らしめよ!」・・・どうでしょうか、みなさんの気分も同じじゃないですか。
 (2)「自存自衛」
 ところが、南下侵略した軍も、追認した政府も、尻馬マスコミも国民も、中国なんて一発ガツンとやればシュンとなるに違いないと思っていたのですが、その予想は大外れ。泥沼の戦争を続けた挙げ句に、わが「帝国」は、ナチスドイツらと「集団的」同盟を結び、遂に天皇が、米英との戦争を布告します。
 「朕茲ニ米國英國ニ対シテ戰ヲ宣ス。朕カ陸海將兵ハ全力ヲ奮テ交戰ニ從事シ」、「朕カ衆庶ハ各々其ノ本分ヲ盡シ、億兆一心國家ノ總力ヲ擧ケテ征戰ノ目的ヲ達成スルニ遺算ナカラムコトヲ期セヨ」。
 しかし、どういう理由で戦争しようというのでしょうか。
 そもそもわが国は、「東亞ノ安定ヲ確保シ以テ世界ノ平和ニ寄與」しようとして来た。しかるに、けしからん中国が、わが「帝国の眞意ヲ解セス濫ニ事ヲ構ヘテ」、中国大陸に進出した日本軍に抵抗を続けてきた。そんな中国政府を「支援シテ東亞ノ禍亂ヲ助長シ」、「東洋制覇ノ非望ヲ逞ウセムト」しているのが「米英両國」だ。これまでこちらは「隠忍」してきたが、彼らは全く態度を変えず、かえってわが国を「屈從セシメムト」し、「帝国の生存ニ重大ナル脅威ヲ加」えている。もう我慢ができない。今や「帝國ノ存立」が危機に瀕している。「事既ニ此ニ至ル。帝國ハ今ヤ自存自衞ノ爲。蹶然起ツテ一切ノ障礙ヲ破碎スルノ外ナキナリ」。
 そうだ、と、前より大きな声でマスコミが叫び国民が叫んだのでした。「けしからんのは中国だ、中国と組む米英だ」、なら「われわれはナチスドイツと組んで、集団的自衛で対抗するぞ」。「自存自衛だ!、友強国と手を組んで、けしからん国から自国を守る武力行使だ」・・・どうでしょうか、みなさんの気分も同じじゃないですか。
 などといっても、そんな歴史なんて、みなさん、知ったこっちゃないのでしょう。「自虐史観」といえば歴史は消せる。「平和ボケ」といえば戦争できる。「膺懲」だ「自存自衛」だ。けしからん中国を懲らしめよ。ついでに韓国も。今すぐじゃなくても、いずれは戦争できる国にすべし。戦争するかもしれない国に。戦争する国に。
 戦争が好き。戦争したい・・・