ハーフ&ハーフ(2)

 というわけで、山田さんには、カップ授与役の名誉会長就任を引き受けてもらいたいのだが、しかし一方、大会の実質的運営者の方からすると、とっくに現役を引退して種目から遠ざかっている山田さんが、自分は一番エライのだからと、大会の運営などにあれこれ口出しされると、それは困る。ありていにいえば、こちらの思うように動いてほしい。
 というわけで、名誉会長というのは、それはそれで窮屈だから、山田さんの場合は、快く引き受けてくれるかどうかわからない。
 ところが、世の中には、何十年前かのオリンピックの栄光などよりもっとずっとエライ家系に産まれたがために、否応なく窮屈な仕事に就かねばならないというご苦労な方がいる。いくら何でも申し訳けないから、できることなら交替制にしてもよいのじゃないだろうか、と前にも書き、候補者の推薦までしたのであるが、やっぱりそれは賛成者が少ない。みなさん、家系に対するこだわりが案外強いのである。
 でも今回は、そのような話ではない。
 ただ、簡単な算数が少し気になっているだけである。
 日本人と外国人が結婚して子どもが生まれると、「ハーフ」といわれる。その子は、両親の血、今風にいえば遺伝子を、半分づつ、つまり1:1で受け継いでいるからである。では例えば、日本人と印度人の子がまた日本人と結婚して産まれた孫は、どうだろうか。単純計算すると、ハーフのハーフで、日本3:印度1。いってみれば「クオーター」印度人である。
 さて、昔のことはなかなか難しく、聖徳太子大化改新も共になかったという説もある位であるが、ともかく、645年に大きな政変があって、その功績で、中臣鎌足が藤原という姓を賜ったということになっている。といっても、これはいわゆる家名ではなく、紀香や何やらそこいらの藤原さんとは関係ないらしいのだが、ともかく藤原という名を受け継いだ彼の子孫一族は、以後実に4世紀以上も(ちなみに、徳川でも2世紀半)、実質的な政治会長の仕事をしてゆくことになる。
 しかし、たとえ政治的には強大な実権を握ったとしても、所詮、名誉会長の家格にはかなわない。姓を授けた側と頂戴した側の間には、厚い壁がある。
 さて、問題はここからである。
 会長の方からすれば、家格では名誉会長には全くかなわない。でも思うように動いてもらいたい。このジレンマを解くひとつの方法が、周知のように、若い名誉会長に娘を娶せ子を産ませて、「義父>婿」関係、さらにうまくゆけば次には「祖父>孫」関係に持ち込むことであった。
 初代鎌足も娘を次々と3人も天皇後宮に送り込む、というか差し出すのであるが、次の不比等になると、文武天皇後宮に入れた娘が男子を産む。そして、いうならば「皇族と藤原族のハーフ」つまり「皇:藤=1:1」のその子が、45代聖武天皇となる。ところが、さらに不比等は、孫であるこの聖武にも、自分の娘を娶せ、そして生まれた子が46代孝謙となるので、「クオーター」つまり「皇:藤=1:3」の天皇が誕生したことになる。
 もちろん、これは単純な模式化に過ぎない。印度人と一口にいってもいろんな人があるだろうし、日本人といっても、母親は在日朝鮮人で祖父は亡命ロシア人かもしれない。もちろん家系もいい加減であって、側室ないしは妾が産んだ子でも、血のつながりのない養子でも、繋がりは繋がりとされる。一人息子はダメだから勘当し、しかるべき人物と嫁を迎えて、家を継がせるなどということさえある。
 それはそうなのだが、ここでは、不比等天智天皇落胤説なども含め、ややこしい話は無視して、日本人は日本人でインド人はインド人だということで話を進めている。ま、そういう大ざっぱでいい加減な算数の話だから、細かいことは気にしないでほしい。