アジアあるいは義侠について39:妄想で幕

 例えば、ノートを残して死んでいった子やブロック塀の下敷きになった子の記事はとても続きを読めずに、だから私は名前すら知らないままですが、もちろんその名をしっかりと聞き取って涙した人々が大勢いるでしょう。それでも、次々と重なる出来事に、やがてその名が覆われてゆくことを止められません。
 西郷隆盛という人は、これだけ長年ファンが絶えないのですから、おそらく大変魅力的な一面をもった人物だったのでしょう。テレビは全く観ていませんが、先日の新聞文化欄によれば、NHK大河ドラマでは意図的に奄美の「地獄」が詳しく取り上げられ、「底辺で苦しむ人々を目の当たりにして」「国のあり方に思いをはせる」主人公が描かれたとのことです。もちろん、島地獄を「目の当たりにした」彼は、だからといってそのまま島の底に「下りる」のではなく、勝者であり収奪者である薩摩藩士に「留まり」、やがて廟堂に「昇り」ます。もちろん島から見れば、私たち大和人は、みんな今も同罪なのですが、ともかくそのようにして、彼は「名」をあげることになるでしょう。
 革命か反革命か、王道か覇道か、そんなことはどちらにしても、「歴史」とは<動かす人>たちが<動かす>ものだという強固な観念の下で,彼の名は、150年ほど前の年表の閣僚一覧に残され、そして150年後の今の年表には、同じく閣僚一覧に、何事が起ころうと傲岸に臆面もなく「対策に万全を期するよう指示しました」といってすませる人物の名前が記載されるでしょう。例えば日大アメフト問題では、忖度や誤解はあっても明確な指示はしなかったという言い逃れを許さずに、違法行為を「した」選手よりも「させた」者に責任があり即刻退任させよと、連日あれほど声高に追求し追い詰めた人々も、モリカケとなると逆に、指示があったと忖度して違法行為をした者だけに責任を被せることを、結局認めてしまうようです。 
 本格的にガタが来ていた幕藩体制の末期、開国後の激動にも圧迫されて、「世直し」一揆や打ちこわしが続発し、旧体制の瓦解に至る大きな歴史過程の中で不可欠な役割を果たします。もちろん会津でも敵は官軍だけではありません。それでも、「敗者」といえども藩士の手紙は残りますが、農民の手紙は元から書かれず、史家から「衆」ではなく「人」として扱われる術はありません。ましてや砲撃で崩れた土塀の下敷きになった少女などは。
 知らざあ言ってきかせやしょう警視総監と泥棒が富豪と露天の商人が反革命と革命家生者と死者が同等に時代を動かす妄想の歴史を騙るヒストリア名せえ勝手のアノニマスたあ、ア俺のことだあ。 
 「ラテンアメリカはひとつ。ハポネスもチョリータもカンバもコージャもひとつなのさ」
 「そのとおり!」
 「え、エルネスト。どうしてあんた、ここにいるの」
 「ぼくはどこにでもいますよ。「チェ」と呼ばれれば駆けつける。それだけですよ」」
 「人騒がせな人ねえ。でも、逢えてうれしいわ」
 「そういえば、アジアはひとつ、っていったハポネスがいなかった?」
 「西条ヒデキでしょ」
 「いや西郷ですよ、西郷テルヒコ。いやタカヒコかな」」
 「で、そのテルヒコだかタカヒコだかって、どういう人なんですか」」
 「なんでも、永遠の革命家っていわれてるそうですよ」
 「でもあの人たち、私の琉球をとっちゃったんだから。日本はひとつ、なんていってね。」
 「あんたたちも、キューバはひとつ、なんていってるんじゃないの」
 「ぼくはそんな狭いことはいいませんよ。で、その人は何をしたんですか。」
 「なんでも、国の代表になって隣国に渡ろうとしたんだけど、政府に反対されたとか。」
 「おお、それで役人をやめて、すぐ同志と船で渡ったんですね。永久革命家ですねえ」
 「やっぱり、18人乗りの船に80人も乘って?」
 「ほんとに、あんたたちは馬鹿なんだから」
 「そういわないで下さいよ。何とかなったんですから」
 「いや、まだ危なっかしいんじゃないんですか」
 「そうそう、あんたもフィデルのそばで助けてあげた方がいいんじゃないの」
 「そういえば昔、アリストテレスも、危なっかしい船で海を渡ったんでしたよね」
 「男って、ほんと馬鹿ばっかり」
 「で、そのテルタカの船はどうなったんですか?」
 「よく知らないけど、タバルザカルとかタバルカナルとかいう島で難破したんじゃなかった?」
 「そうそう。で餓死しかけて、天皇だか大統領とかをパチンコで撃ったんですよね」
 「パチンコって、ハポンのミサイルなんですか」
 「そういえば、リトルロケットマンは、ミサイルや〜めたっていってるらしいですね」
 「でもテルタカは戦争をやめなかった、というか、また始めたらしいのよ」
 「だから永久革命家といわれるんですね」
 「ほら、戦争と聞くと目の色変える。革命とか反革命とか、ほんと迷惑なんだから」
 「最後の戦争じゃ船じゃなくて、カーゴに乘って指揮したらしいわね」
 「カーゴを使うなんて、私たちの仲間じゃないの」
 「いやいや、あんたたちみたいな密輸空賊とは違いますよ」