白洲次郎という人(1)

 どこかに仕掛け人がいるのでしょう。従来の戦中戦後史では殆ど問題にされて来なかった白洲次郎という人が、昨今強い脚光を浴びています。本屋の棚には関連本が平積みになっており、民放の特番が作られ、NHKでも、歴史番組の他、先日も特別番組が放映されたようです。当分、白洲ブームは続きそうです。
 大して罪のない一過性のブームならとやかくいう程のことではありませんが、でも、「日本で一番カッコいい男」とか「こんな凄い日本人がいた」とかいわれ、遂に、「僕らはあなたに憧れる」というネット投票でダントツ1位だというのを聞いては、「おいおい、そこまでいうか」、と一言口を挟みたくなります。
 大体、市井の片隅にひっそりと暮らしていた庶民ならいざ知らず、桁外れの金持ちで、長官をやり、全権外交団に加わり、大企業の会長をやりと、とにかく表通りを歩き通して、しかも生来することなすこと派手好みだった人物が、にもかかわらずブーム以前には殆ど知られていなかったということ自体が、白洲という人は昨今いわれるほど大した人物ではなかった、ということの証しでしょう。白洲は実に多くの人脈をもっていたというのですから、もし彼が、それらの人々の記憶に「凄い」「カッコいい」という薄れることのない印象を残していたとすれば、そしてそれらの人々に彼のことを是非後世に伝えてゆこうと思わせるような、そんな器量を彼がもっていたとすれば、白洲次郎という名は忘れられていた筈がありません。
 とはいえ私は、白洲次郎という人物を頭から貶そうなどとしているのでは決してありません。むしろ先に誉めておきますが、白洲という人は、本屋の店頭で表紙写真を見ても、確かにカッコいい男だったことは間違いないようです。一流ブランドを着こなしレトロなカッコいい超高級車を乗り回す長身ハンサム男。簡単明瞭、生まれついての顔姿形と、生まれながらの金金金。そりゃ今の人たちがダントツに憧れますって。その上、イギリスの名門大学を出て上流英語を流暢に話し、親友が貴族の子息で結婚相手も伯爵令嬢、首相に眼をかけられて仕事をこなし、しかも反面、いわゆるチョイ悪不良でカーマニア。・・・銀座でモテモテだったというのは当然でしょう。私もそこまでは、つまり写真と銀座的評価でダントツに「カッコいい男」だったことは、大いに認めます。
 けれども、銀座評価を越えて、「日本人が卑屈な時代に一人占領軍に楯突いた」とか「一身をを投げうって国益のためにつくした」などと賞賛され、「こんな凄い日本人がいた」などと驚嘆されると、おいおい、そこまでいうか、と、ちょっと確かめてみたくなったわけです。 
 とはいっても、もちろんたかだかブログのネタです。本気で白洲次郎なる人物の表裏を明らかにしようというような、大それたことを考えているのでは全くありません。第一私は、本を手に取ったこともなくNHKなどの番組も見ていませんので、白洲なる人物のことは殆ど知りません。
 そこで、ある仕掛けを使うことにします。
 ご承知のように、Wikipediaというフリー百科事典がありますが、今回はその「白洲次郎」の項目(→ここ)を使わせて頂きます。Wikipediaのこの項目(09/3/15現在)では、ドラマや特番や伝記小説などのような脚色なしに、簡単な白洲の略歴と有名なエピソード等が、手際よく整理されています。Wikipediaには評価の揺れもありますし、この項目の記載にもあるいは問題があるかもしれませんが、ともかく以下では、そこでの記載<だけを>資料とします。つまり、「白洲次郎」をではなく、「Wikipediaに記載された白洲次郎」をネタにしようというわけです。(続く)