視聴者が主役

 何度も書くようなことではないのに恐縮ですが(^o^)。
 今更何だといわれるかもしれませんが、結局は「参加幻想」なんですね。あれは。
 最近は、野球であれサッカーであれ何であれ、試合後のインタビューは、必ず同じ質問で終わります。「最後に、応援してくれたファンの方々に向けて、今のお気持ちを、ひとことどうぞ!」。そこで突き出されたマイクに向かって、ほとんどの選手たちが必ず答える、優等生発言があります。「優勝できたのは(メダルがとれたのは、試合に勝てたのは)、応援して下さった皆様方のお陰で〜す」。最近の選手たちはやっぱり学習しているのでしょう。カメラの前でオウム返しにそう答えるのですが、ディレクターの思惑通り、その発言がテレビで放映される時には、それは、「テレビで応援して下さった視聴者のおかげで〜す」と、聞こえます。
 でも、これだけではちょっと飽きられて来たかな、と感じた場合、ディレクターは、こういう質問を指示します。「この喜びを、真っ先に、誰に伝えたいですか?」。これもまた予定調和の答えがあって、「これまで私を支えてくれた○○に・・・」と、ここで涙ぐんだりすると、いい絵が撮れた、ということになります。あ、○○は、家族の誰かがいいですね。あるいは、試合直前に怪我をして出場できなくなったチームメイトとかがいたら、一本特番ゆけます。
 ということで、テレビは、試合そのものを、「テレビの番組」にしてしまいます。試合に勝ったのは選手ですが、その選手が「応援してくれた皆様のお陰です」と、テレビでいうわけですから、視聴者は、応援という形で試合に<参加した>だけでなく、選手を<勝たせた>主役という幻想を与えられます。こうして、「番組」ができあがるわけですね。
 だから、間違っても、本音をいってはいけません。特に五輪の場合は、普通のスポーツ以上に、気を付けなければなりません。 
 「応援ってったってねえ、ビール飲みながらテレビ見てただけでしょうが。第一、ルールもろくに知らないくせに。テレビに映った最後の試合だけ見て、自分らが応援したから優勝できたなんて、思われたくないですよ。な〜にが皆様のお陰ですか。誰のお陰でもない、私ですよ。この私が、カレシ作ってキャーキャーいってる同級生から敬遠されながら、毎日毎日、汗にまみれて自分の身体を鍛え、コーチに怒鳴られては技を磨き、ライバルをけ落しけ落としして、ようやくここまで来たんです。それでも、家族とかコーチとかは、そんな私のことを知ってますからね。そりゃ喜んでくれるでしょう。でも、テレビで試合見た人なんて、ただ番組見たかっただけでしょうが。ファンとか応援とかいっても、吉本の運動会とかジャニーズの運動会の応援と大して変わらないでしょ。そんな人たちのお陰なんかじゃないですよ。ウソですよ。テレビとかで応援してくださった全国の皆様のお陰で〜す、なんて。
 もちろん、テレビで沢山の人が見てくれるからスポンサーも付き、放映権が売れて、回り回って私たちのところにも強化費とかのお金が来るのですし、テレビで顔と名前が知られると、引退後に適当な話をして講演料を稼いだりもできますからね。だから、私も、「皆様方のお陰で〜す」と、優等生発言をしますよ、もちろん。
 でもね。一体いくら出したんですか。民放で見たのならタダでしょうが。税金使ってるってね。あんたの払った税金で選手一人に使ったのはいくらです? 1円? 2円? 仮に1億円もらってオリンピックに行っても、国民ひとり1円でしょ。仮に10円20円だったとしても、そんな金で、ごちゃごちゃいわれたる筋合いはないですよ。試合を見て楽しみたい、応援したいっていうんなら、そうしてくれればいいんです。そんだけのことなら、私たちも、見てくれてありがと、応援してくれてありがと、っていいますよ。それだけのことでしょ。それをね。服装がどうだのこうだのって、何の権利があって口出すんですか。
 もちろん、けったいなヒョウ柄を着てるオバちゃんが、腰パンツの男を見て「何あれ」とアキれるたりすることもあるのが世間です。自分は日頃だらしない格好でコンビニに行きながら、選手の格好を「何あれ、だらしない」と思ったりするのは、お互いの趣味、人の勝手ですから、別に問題ありません。しかし、それで出場させるなっていうのは、全く違う話でしょう。何様だと思ってるんですかね。毎日毎日、汗にまみれて練習して、ようやく堂々出場権を掴んだ選手を、私の趣味と違うから出させるな、などと馬鹿げたことをいうのは。
 寝ころんでテレビを見ているだけで、<参加>している気持ちになって、それどころか自分たちの応援のおかげで選手が勝てたなどという、全くバカげた幻想をもってしまう。それもこれも、テレビの戦略ですね。もしかすると、その戦略に乗って、テレビの前で「応援してくださる皆様方のお陰で〜す」などといって、涙を流したりする優等生ブリッコ選手にも、視聴者をつけあがらせた責任があるのかもしれません。
 とにかく、五輪なんてコリゴリンです。」