国ヲ守レ

 新年になりました。
 年明けの話題は目前の冬季五輪ですが、年末に、女子カーリングがソチ出場を決めたというニュースで、主将がこんなことをいっていました。あと1勝のところで中国に敗け、もうダメかと落ち込んでしまったが、中国の選手たちが励ましてくれたので、立ち直ることができて、次の試合で頑張れた、と。
 最近、政治家たちが実に嫌な風潮を作り出し、けしかけています。選手たちよりずっと品性の劣る人たちといわざるをえません。もちろん政治家ですから、ただの個人的品性の問題ではなく、利害の思惑があってのことなのですが、素直というか何というか、思惑に乗せられて騒ぐ人たちが少なくないようです。それも激しく。
 幸い私のまわりの隣国人はみんな日本に友好的ですし、逆もそうですが、実際に、ひとりひとりの人と付き合えば、タイ国人でも千葉県人でも関西人でも白人でも消防士でも子どもでも、良い人がたくさんいて嫌な人が少しいるというのが普通でしょう。でも、相手側に友人も知人もいなければ、たかじん嫌いの大阪人や慎太郎嫌いの東京人は見えず、たかじん顔の「大阪人」や慎太郎顔の「東京人」といった勝手な「まるごとイメージ」を作っては、けしからんとか嫌いだとか騒ぐのでしょう。
 けれども、そうやって、実にけしからんとか嫌いだとか、金はなくて不満だけがある人々が騒いでいるうちに、金のある両国の企業家連中は、新年早々、かなり大きな経済交流会をやったようですね。貿易額でアメリカを抜いて世界一になったそうですから、名刺交換商談成立、商売商売。なにしろ、腹を立てて騒いでいる人々も、着ているものには made in 何とかとあり、食べているものの産地にも同じ国名が書いてある時代です。それどころか、派遣先の会社が容赦なく工場をその嫌いな国に移してしまったり。ということで、あっさり見捨てられてしまうと、気が付けば手に持つ小さい画面以外には、どこにも拠り所のない孤立時代、もはや幻想ニッポンにすがりつく他ないのでしょう。嫌いだ、けしからんとネットに満ちる罵声は、オレを見捨てないでくれという悲鳴にも聞こえます。これこの通りオレは人一倍日本人だ、オレを見捨てないでくれ。しかし悲しいかな、いや、けしからぬことに、矛先が間違っています。
 「そんなこというがね。やっぱり島を狙っているのはけしからんじゃないか。船で近づいたり、飛行機を飛ばしたり。」
 「そうだけど、無人島で上陸もしてないんだから、まだマシだよ。もうちょっと北の方じゃ、完全に占拠して建物も建て、次々と上陸しては騒いでるそうじゃないか。もっとけしからん。」
 「いやいや、騒いでるったって、ちっぽけな岩の島なんだろう。もっと北の方へゆけば、ものすごく広い島を完全に支配して、港を作り町を作り工場を作り役場や学校を作り、もはや騒ぎもしないで平気な態度。もっともっとけしからん。」
 「いやいやいや。静かに暮らしてるだけなら、まだマシだよ。南の方へゆけば、ものすごく広い土地を取り上げて鉄条網で囲い、飛行機にミサイル、核兵器まで隠しもっているんだぜ。軍隊が駐留して、何をしても日本の法律が及ばない治外法権。その上、用心棒代よこせと大金まで貢がせている。最大にけしからん話じゃないか。」
 「う〜ん、北も南も四面が楚歌、というか四面が楚国か。」
 「そうなると、南の小さい無人島には、上陸もしていないのだから、四面のうちじゃ、実はあの大国が一番マシかな。」
 「いやあ、残念ながらそうじゃない。島や土地よりも、経済よりも、もっともっと重大なものがある。押しつけ憲法だなんて騒いでいるが、ちゃんちゃらおかしいや。あきつしまやまとのくにはことだまのさきわふくになれどかなしくももじはなし、漢民族の文字を押し付けられて以後、二千年近く延々使わせられている。」
 「そういやそうだ。不買よりも何よりも、「漢」字使うのなんかやめちまえ。」
 「いいね。かつては強く大国の勢力圏に組み込まれていた朝鮮半島でもベトナムでも、漢字文化から、つまり漢民族の文化支配から自立しようと独自の国字を使っている。世界中で漢民族の文字を使って恥じないのは日本だけだ。情けない。腹が立つ。」
 「いいね。嫌中なら当然嫌漢字。平成二六年の年頭に誓うぞ。断固嫌中嫌漢嫌漢字!」
 「あの・・・それって、ぜんぶ漢字ですけど。それに、平成ってのは『史記』『書経』からとられたんですけど。」