「楽しい」時代8

 どうもまずかったようですね。わくわくするほど楽しいモール萌えという趣味の対談を取り上げたつもりだったのに、なんだか暗い話になりました。
 東氏らは、ショッピングモールが「社会的弱者にやさしい空間を実現している」といい、「結局、モールが理想の街を事実上作っちゃってるよね」と受けるのですが、どうも話はそう簡単ではなさそうです。
 ショッピングモールが商店街から人々を吸収し、東京が地方から人々を吸収する。ただし、吸収されるのは買う力のある人々であり東京で生き抜く力のある人々です。
 東氏は自ら家族がベビーカーを押す「社会的弱者」となって、ショッピングモールの行きやすさを痛感したとのことですが、ベビーカーを押す「弱者」や高齢の「弱者」であってもなくても、買う力を持っているか、またはその家族でなければ、入り口ではじき出されます。グローバル時代は力の世界。ベビーカーを押す「弱者」も力があれば人間ですが、力なくはじき出されるのは雑魚であって人間ですらないのでしょう。
 それでも、それが「現実ならばやむをえない」、いや、そうしないとトウキョウが勝てない、と。
 そういえば、「ブレードランナー」の続編が先日公開されましたね。それは見ていませんが、ディックの原作による第一作映画の舞台は2019年ですからもうすぐです。ちなみに「バイオハザード」は21世紀初頭という舞台設定らしいので、もしかするとそれも今頃かもしれません。レプリカントやゾンビや雑魚は抹殺される運命ですが、でも「人間」は、どこか隔離された別世界の内部で、「わくわくする楽しい」生活をこれからも送って行けるのでしょうか。例えば、巨大なショッピングモール、完璧なアミューズメントランド、あるいは東氏の義父が別荘を持っておられるというアメリカのゲーテッドタウン、ひいてはトウキョウが仲間入りできるかどうかというグローバル大都市、そういった場所で。
 と、ごたごた書いてきましたが、もちろん私も、東氏や大山氏のお仲間です。いやいや「力」は何もない雑魚だといわれてオシマイでしょうが。それでも、姜氏や内田氏の見通しに強く共感しつつ何もせず、稲垣氏の生活に強く感動しつつエアコンをつける。ディズニーランドに行ったことがなくても、シネコンで映画を観る位のことはする。近くにある巨大なショッピングセンターでワクワクしたい気などなくても、古い商店街よりはスーパーやコンビニで買い物をする。里山資本主義とかいう話を聞いても、スーパーの近郊野菜コーナーで大根などを眺めて終わり。
 ということで、一番最初の話に戻りますが、投票がどうであれ日々の生活について「それが現実」といわれれば反論できないままで、 そりゃ、カケでもモリでも圧勝しますわな。
(内田樹姜尚中『アジア辺境論』集英社リリー・フランキー『東京タワー』扶桑社、稲垣えみ子『寂しい生活』東洋経済新報社)