どうでもいい話

 ほとんど政府のいいなりだった分科会さえGOTOの停止を再三訴えていたのに、それでも動かなかった政府ですが、ようやく年末年始だけ「一時」停止しました。周知のように、菅に決めた二階幹事長は、全国旅行業協会の会長で、巨額の献金を受けています。
 医療崩壊が始まり、心身の過酷さに耐えきれず退職する看護師も出てきているとのこと。「資格があっても職に就いていない看護師に、国会議員と同額の給料を提示して臨時に職場に戻ってもらうという位の、思い切った手を打つ気はないのか」、と、誰かが書いていました。給料だけの問題ではないでしょうが、そう書かれるほどの、余りの危機感の無さです。GOTOをやめず、オリンピックもやめず、「ガースでーす」とへらへら笑いながら、真面目な質問には仏頂面で何も答えず、呆れる他ありません。しかし、そんな人物を選んだのは私たちですからね。もう当分どうでもいい、くだらない話でもすることにします。

 前回、「ロング・グッドバイ」の村上春樹訳を引用しました。私が最初に村上春樹という名を知ったのは、カーヴァーかアーヴィングかの短編の訳を読んだときで、とてもいい文章だと思いました。しかし小説は、買ってきて読みかけてやめたものはありますが、あとはほとんど読んでいません。そんなわけで、村上春樹氏について何かをいう資格もつもりも全くありません。以下は単なる無駄話のきっかけです。
 先に引用したロング・グッドバイは、高級レストランのエントランスから始まりますが、そこに、客が乗り付けた車を駐車場に運び、帰りには玄関まで持ってくる、駐車係の男が出てきます。で、マーロウはその男とちょっとした会話をするのですが、男の口調がこんな具合なんですね。「当然でさ」「~暇はないやね」「~ようですぜ」。原文はもちろん清水俊二訳「長いお別れ」も手元にないので確認はできませんが、おそらく、もともとスラング混じりの上品でない言葉遣いになっているのでしょう。
 しかし、最初から「昔モノ」のつもりで読んでいる時には、円タクの運転手が、「ようがす、80銭で行きやしょう」、などといっても聞き流せるのですが、マーロウとなると、今か昔か微妙なところで,、個人的には少し違和感がありました。

 いわゆる役割語や身分敬語は時代とともに減少しつつありますが、性別語ももちろんそうです。「あら嫌だ、降って来ちゃったわ、お昼までに止むかしら」などと話す人はだんだん少なくなりつつあるようで、結構なことです。
 性別といえば、夫婦別姓自民党保守派の反対で進まないようですが、最近ちょっと気になるのは、小説での「姓/名」呼称です。例えば、漱石の昔なら、
 「金田から何か言ってきたかい」「はい、お電話が」「金田が電話を」「いえ奥様が」。
 最初の「金田」は、「家」としての金田で、後の「金田」は「主人」たる男性のことです。一方女性は、家の中にいる限り、「金田の細君」とか「金田の娘」などで呼ばれます。しかしもちろん、時代が下がって、家から外に出て就職などすると、金田富子嬢も、「金田くん」「はい課長」などとなる筈です。
 なのですが、今の小説やドラマでも、まだ「姓」は男、という暗黙の理解がないでしょうか。
 斎藤美奈子の『紅一点論』の時代から、「アンヌ隊員」のように、男の中の「紅一点」は、姓の中の「名一点」であることが少なくありませんでしたが、時代が下って、強い女性ヒーローがたくさん登場するようになった今も、「姓/名」の「男/女」使い分けがある気するのですが、どうでしょうか。捜査一課の赤木班長が四人の部下に指示を出します。「石井と宇野は車で待て。恵美と岡田は裏に回れ」。これは赤木という男の女性観を表しているのだとしても、しかし地の文でも、「赤木は恵美と岡田を呼び戻した」などと書かれます。「和恵が、スーツケースを持たせた木村を伴って、玄関から出てきた」。加納和恵は、木村の上司ですが、それでも「加納」ではなく「和恵」です。「佐田がネクタイをゆるめていると、リビングから志津が声を掛けた」。妻も(姓は)佐田なのですが、佐田といえば男です。そういえば、見ていませんが、「科捜研」の所長は「マリコ」ですね。(⇒と書いたところ、これは違います、とご指摘を頂きました。見ないで書くものではありません。ついでに、「小泉首相、真紀子大臣」といった使い分けは昔から指摘されています、というご指摘も頂きました。調べもしないで書くものではありません。)
 今の時代、「あらまあ、そうなの」などと言わせられなくなった代わりに、「名前は女性」という読者との相互了解があれば、作家は楽なのかしら。
 別姓反対派の言い分のひとつに、どちらも選べるのだから差別ではない、というのがありますが、9割ほどは夫姓を選ぶようです。家事を多くさせられ、姓を変えさせられ、なのに姓より名で呼ばれ、時の流れに身をまかせ、あなたの色に染められ・・・あら、これは少し、風向きが違うわね。