生命のランク

 もちろん、生命に軽重はない、といわれる。それどころか、どうかすると、ひとりの生命は地球より重い、というようないい方までされる。しかし一方、生命の「社会的価値」ということになると、暗黙のうちにというか、当然ながらというか、軽重がある。
 この度、厚生労働省の専門家会議が、鳥インフルエンザからの変異で人から人へ感染する新型インフルエンザが大流行し、数十万人の死者が出そうだというような場合を想定して、対策ガイドライン案なるものを示したそうである。ウィルスに有効なワクチンを、ただちに国民全員に注射するだけ確保するのは難しい。そこで混乱が生じないよう、誰から注射するか、彼を後回しにするか、という順序を、あらかじめ決めておこうというわけである。
 先ず医者をはじめとする「医療従事者」。なるほど、これは誰もが納得しよう。で次は「社会機能維持者」、つまり「電気・ガス・水道・食糧供給・通信・交通」従事者、それから「警察」だそうである。ちなみに、人を捕まえる警官は入っているが人を世話する介護士や保育士などは「社会機能維持者」ではないらしい。で、以下は・・・
 おそらく、意識的にか無意識的にかは別として、二つの系列が混在している。
 一つは、はっきりとした生命の社会的ランクづけである。危機に面した社会にとって、戦力として<役立つ>か<役立たず>か。「役立つ」のは、医療従事者、社会的インフラの従事者。だから、先ずそれらの人々にワクチンを使う。で次に一般成人に。残りの子供、老人、病人などは、いってしまえば<役立たず>なので、ワクチンは後回し。まあ厚労省にとってのホンネというか、社会にとってのホンネというか。
 しかし、これでは余りにもあからさまである。少なくともタテマエとしては、社会は、<弱者>こそを護る、ということになっている。そこで弱者の順序をあえてつければ、インフルエンザによって他の人よりも深刻な被害を受けることが予想される病人など、つまり「医学的なリスクの高い者」。それから、抵抗力が弱い幼児や子供たち。それから老人。で、健康な成人がその次に来て、抵抗力や快復力が人一倍強い屈強な警官などは当然最後、ということになるだろう。
 ということを頭に入れて、ガイドライン案なるものをよく見てみると、興味深い。苦労したというかごまかしたというか。すなわち、こうである。
医療従事者→電気ガス水道食糧通信交通警察→「医学的ハイリスク者」→成人→小児→老人。