1897年-27:インドがない

 もちろん<辞書>として、どんな国どんな産業にもあてはまるような、最広義の説明をするということになると、そうなろう。例えば、和辻がいうような機械織り綿糸に関わる産業革命は第一次のそれであり、重工業に関わる第二次の「産業革命」が後に続くのだ、というようないい方がされたりするように。
 しかし、少なくとも、総本家イギリスの産業革命についていえば、「動力機械の発明と応用が生産技術に画期的な変革をもたらし、工場を手工業的形態から機械制大工場へ発展」させたという説明で「綿」が消されることは、汽車が消され、港が消され、さらに拡がる海外が消されることである。強引ないい方を承知でいえば、世界史的な視線が消されることである。
 世界史上初めて出現した「画期的な」事態は、工業都市マンチェスターだけではなく、貿易港リヴァプールを不可欠とする、いわば国際的な新システムであった。だが、産業革命とは「18世紀後半に英国に始まった、技術革新による産業・経済・社会の大変革」であるといういい方は、マンチェスターで起こったことを、リヴァプール抜きで説明している。
 マンチェスターの工場に据え付けられた、蒸気機関で高速運転する紡績機械が日夜大量の綿糸を生産できるのは、汽車によってリバプール港から、つまりは海外から、大量の綿花が運ばれてくるからであり、工場がはき出す大量の綿製品が汽車でリバプール港に、つまりは海外に運び出されて行くからである。
 もって廻ったいい方をしないで、端的にいおう。辞書の説明には、<帝国主義国>イギリスを生みだした「産業革命」が「波及」することで、同じく帝国主義列強となってゆく、「欧米諸国」や「日本」への言及があっても、同じ過程の裏側で、圧倒され排除され駆逐され収奪され<植民地>にされてゆく国や人々についての言及がない。
 象徴的にいうなら、・・・インドがない。