露出狂時代(1)

 一昔前、新宿か渋谷かどこかに監視用街頭カメラが初めて出現した際には、プライバシーの侵害を危惧し設置に反対する声が少なからず起こったものでした。監視社会の到来を許すな、というわけで。
 だが、時代はどんどん動いて、今はすっかり様子が違います。店内や街角や、その他至るところに(防犯カメラと命名された)監視カメラが設置されていても、それらの映像が警察の要請に応じて簡単に提供されても、それどころか単なるテレビ番組の材料などに提供されても、そして提供された映像がTVなどで繰り返し流されても、誰も何もいわなくなりました。
 しかしそれは、人々が、いわゆる「プライバシー」を軽視するようになったという意味ではありません。政治家をはじめ権力をもった人々は、スキャンダル追求を防御する恰好の盾として、プライバシーということばを都合良く乱用し、追求する者を恫喝するようになりました。もちろん、一般庶民も、誰でもどこでも、何かを拒否する簡単で有効な盾として、プライバシーということばを使用するようになっています。「お母さん、部屋へ来ないでね」「クラスの子?」「プライバシー!」、みたいなところまで(^_^;)。
 盾としてのプライバシーの使用レベルは上がっているのに、街頭カメラなどへの警戒レベルはずっと下がっているのは何故でしょうか。つまりそれは、自分は見られたくないが、他人のことはどうでもよい、むしろ見たい、ということなのでしょうか。
 このあたりで、あああの話かと思われるかもしれませんが、すみません、その話です(^_^;)。グーグルアースの時も驚きましたが、今度のストリートビューにも驚かされました。ご存じない方もいるかもしれませんが、地図上の任意の場所を選択し、まるでそこの道路に降り立って散歩しているかのように、自由に移動したり、あるいは立ち止まってあたりを見渡したりできる、非常に鮮明な写真閲覧サービスです。現在は大都市の主要道路だけですし、数ヶ月前の撮影データらしいですが、やがて全国に広げる予定だそうですし、また将来は更新期間も短くなり、さらに定点常時ビデオカメラの動画なども組み込まれたりしてゆくことでしょう。
 すぐ想像できるように、このサービスは、プライバシーに関して多くの問題点を抱えています。それらについては、既に様々な意見が出されているようですし、今後も議論が進められると思います。
 ただ、このサービスについてもまた、多くの人々はそれほど深刻に意識せず受け入れてゆくのではないかと思われます。ひとつには、こんなこともできるのかという技術への興味と、そしてもちろん、このサービスの驚異的な「便利」さから、プライバシー侵害の危惧には目をつぶって受け入れ利用する、ということがあるでしょう。
 しかし、それはなお半面であって、このサービスに対する人々の関心は、単なる「便利さ」だけではなく、同時にその「面白さ」にも向けられます。早くも、高校生のキス、ラブホテルのカップル、立小便、職務質問など、また洗濯の干し物や窓から見える室内など、「面白い」シーンの情報が出回っているようです。しかしもちろん、それらはまさに、プライバシー保護上問題になりそうなシーンです。
 ということは、このサービスの「面白さ」とは、他人のプライバシーを侵す「覗き見」ができるところにあるのでしょうか。もう一度書きますが、これほどプライバシーが主張される時代に、人々がこんなサービスを拒否せず、多分受け入れ、むしろ歓迎するだろう理由のひとつは、自分は見られたくないが他人のことはむしろ覗いてみたいという、人間なら誰もが持っているのかもしれない、勝手な欲求にあるのでしょうか。
 だが、もう少し事情は込み入っていると、私は思います。(そのうち、続きを)