覗き魔時代(1)

 このブログは、日頃から、何事にせよまじめではなく、斜めから茶々を入れては逃げるといったスタイルなものですから、まじめなご意見の前に出ると恥ずかしく、また反省もさせられます。例えば先日触れたストリートビューですが、私はそれに対しても、不まじめな横道をうろついた上で、結局は歯切れ悪く認めてしまっています。グーグルの態度は(と書くほどフォローしてはいませんが)、慇懃無礼な低姿勢を装いながらも、基本的には巨大勝者として、「公道を撮してどこが悪い」と、権力的な開き直りに腰を据えているように思われ、実は私も大変不快に感じているのですが、「おそらくあと10年もすれば、私たちのすべての行動が環境に散らばったセンサによって常時記録される時代になる」(瀬名秀明デカルトの密室』)などといわれても否定できない時代なのだし、どうせ蟷螂の斧の毛の先と思ってしまっているのはいけません。
 というわけで、多少忸怩たる気持ちでいたところ、たまたま、樋口理という方が、大変まじめに問題点の指摘をされていることを知りましたので、今日は、そのご意見を、まじめに紹介させて頂きます。
 もちろん、思わぬ誤解をするかもしれない私の紹介はよりも、できればせひ一度、直接ここをごらんになってから、また戻って頂けばよいのですが。
 ということで、本題に入りますが、樋口氏は、グーグルも好きだしネットによる情報のオープン化にも感謝しているがと断わられた上で、大変丁寧なことば遣いながら、今回のサービスに対して、ストレートにこういわれるのです。
 「ご検討をお願いしたいことはひとつだけ。日本の都市部の生活道路をストリートビューから外してもらえませんか」。
 なぜ、そのようなお願いというか要求をされるのか、氏はその理由について、日本の生活文化という観点から、詳しく立論されています。私の読み方が誤っていなければですが、氏の丁寧な立論を強引に短くまとめれば、こういうことになるでしょうか。
 グーグルの本家アメリカと日本では、生活文化が違います。「日本の都市部の生活道路は生活空間の一部で、他人の生活空間を撮影するのは無礼です」。「僕らの生活スタイルは、生活空間の様子を一方的に全世界に機械可読な形で公開するようにはなっていません」。
 例えば東京の都市部の路地で、見知らぬ男が、歩いては立ち止まり、周りを見回してはカメラで写真を撮りためたりしていようものなら、たちまち警察に通報され、あるいは職務質問され、任意同行を求められることになるでしょう。
 このように、「生身の人間が路地から生活空間をじろじろ覗いているとやっかいなことになりそうなことは日本人なら直感的にわかるので、普通の人はそういうことをやりません。そのため、生活者側も路地から生活空間の様子が知れてしまうことに対してわりと無防備です。
 ところが、ストリートビューを通して覗くのは、覗かれていることに気がつきませんから通報されることもありません。この非対称性が別の問題を引き起こします。
 日本中の、いや、世界中の人が、ケーサツのお世話になるというリスクを負わずに、無防備な生活者の生活空間の様子を見ることができるということは、例えば侵入が簡単そうな構造の家屋を探したり、転売価値の高そうな自動車が公道に面した場所に駐車してある場所を探したりという犯罪のための下見を、誰もが通報されるリスクなしできるようになってしまった、ということです。」
 見知らぬ人物が道から家をじろじろ覗いていれば「通報されるはずだから、と安心して無防備に暮らしている我々が悪いのかもしれないけれど、この安心感が一方的に突然乱されるのは、どうにも納得がいきません。」
 「それにしても、ストリートビューとプライバシーの問題について、意外なほど日本の新聞が何も言わないのはなぜでしょうね。」「でも、近い将来、突然鬼の首を取ったように「クルマ泥棒、インターネットで下見」とか書き立ててバッシングキャンペーンを始める」のじゃないですか。そういうことになる前に、「常識的なローカル社会のモラルに照らしたサービス設計をしていただきたいと心から願っています。」
 「公開することを前提としていない生活空間の様子を勝手に公開されるのは、どうにも気持ちが悪い。僕らの「ほっといてもらう権利」をないがしろにしていて、どうも“evil”だと思えてしようがないのです。
 お願いですから、僕らのプライバシー感覚と防犯意識が、あなたがたのそれと同じようにアメリカナイズされるまでの間で結構ですから、日本の路地の様子をストリートビューから外していただけませんか。そのために、インターネットがほんの少しだけ不便なものになっても、僕は全然かまいません。」
 まじめな話、このご意見というか生活感覚には共感します。おそらく私たちが、ストリートビューってのは面白そうだけどでも何となく嫌だなァと思うその気持ちを、うまく形にしてくれています。何といおうと、ストリートビューは、「覗き見」サービスですからね。
 ただし、大いに共感しながらも、2点だけちょっと、付け足させて頂こうと思います。大したことではないのですが。(続)