和平と平和

 山田まりやという人がいます。私は、いま確認しようと思って「まりあ」で検索した位で、どんな人かはよく知りません。ただ、テレビで時折見かけたことがあるというだけなのですが、同じ時だったのか別の時だったのかは忘れましたが、2回だけ、覚えている発言があります。
 ひとつは、初体験を聞かれるという、よくあるセクハラ場面で、彼女が、「高校の時、先輩と」と答えたシーンです。もちろん発言内はありふれていますが、その口調が、「はじめてチョコレートを食べたのはいつ?」と聞かれてももうちょっと何か表情があるだろうと思うほど、実にたんたんと普通でした。ま、恥ずかしがったり口ごもったりするところを見たいというけしからぬセクハラ質問を、たんたんとかわしたということで、それはそれでよいのですが、本題はもうひとつの発言です。前後の文脈は忘れてしまいましたが、彼女は何かの拍子に、「いまの世の中、平和ボケで」、といったのです。これまた、実にたんたんと、普通の口調で発言したので、その普通さに少し驚いたことがあります。
 よく知りませんが、もしかすると、山田まりやというのは、何事もごく普通のいいかたで発言する、あるいはそれしかできないというところにタレント性があって、そこに好感をもつファンがいたり、そこが限界だというディレクターがいたりするのかもしれませんが、よく知らないタレントの話はそこまでにします。
 最初に誰が考えたことばなのかは知りませんが、「平和ぼけ」ということばが、一時結構流行り、初体験とかチョコレートの話と同程度の、ごく普通の軽さで話すタレントがいたりしたわけです。ちなみに、逆に「戦争○○」といい返す言葉があればよかったと思うのですが、どうも造語力に差があったのは情けないところです。
 しかし、一体、平和というボケ、あるいは平和がボケだというのは、どういうことなのでしょうか。世の中平和で、緊張感やストレスなくボケ〜っといられるということなら、大変結構なことではないでしょうか。戦争になって、毎日殺したり殺されたりする日常生活の方が、ぼけーっといられる平和よりマシだなどという人は正気の沙汰と思えません。結局、「平和ぼけ」という造語のズルいところは、「平和でぼけーっとのんびりゆったり」という語感に、いわゆる痴呆的「呆け」を意図的に結合して、平和のイメージを痴呆のイメージに重ねたところにあります。「いつまでも9条を変えないというのは<平和のんびり>ですね」、などといったとすると、「のんびり、結構ですなあ」といわれてしまいますが、「<平和ボケ>ですよ」といえば、ころりと騙されて、「痴呆」はまずいなという気分になり、「いまの世の中、平和ボケで」といっておけば、何かひとかどの発言をしたつもりになるタレントなども出てくるわけです。
 しかしともかく、改憲論者の人々が、「平和ボケ」という騙し言葉で、それなりに営業できたのは、「平和」という言葉のコノテーションというか連想語というか、に、「ぼけ〜っ」という言葉がくっついているという、そうした一般的な語感があったからなのでしょう。つまり、平和議論がまだどこか平和的だったというか、平和が平和に語られたからこそ、「ボケ」という揶揄が流行ったのかもしれません。
 私などは、大変小心者ですから、何より平和が一番です。少々問題ある平和であっても、「のんびり、ぼけ〜っと」した平和なら、そちらをとります。「平和ぼけ」大いに結構。「今の世の中、ボケだ、痴呆だ」と、平和につけ込んで勝手なことをしたりぼろ儲けしたりする連中がいたとしても、少々のことなら目をつぶります。殺したり殺されたりよりは、何層倍もマシだと思うからです。
 しかしながら、平和というものは、全て「のんびりぼけ〜っ」とは限りません。
 オバマが大統領になって1月たちました。アメリカはもちろん、世界的なすごい支持率は、もう少しは続くのでしょう。だんだん醒めては来ているようですが。
 ところで、オバマの掲げている重要な政策のひとつに、「中東和平」があるようです。彼の就任前に、駆け込みで無茶苦茶な人殺しをやったイスラエルも、就任とともに「停戦」していましたが、一昨日の10日、そのイスラエルで総選挙があり、右派勢力が躍進したとのこと。選挙躍進をバックに、何か口実を付けて再び侵攻する危険性が高まっています。ま、もともと右派勝利を狙って侵攻したのでしょうけれど。そして翌日、オバマは、早速イスラエル大統領に、祝福の電話を掛けたそうですね。それが何と、「世界に民主主義の模範を示した」と祝福したそうで。
 アメリカの国務省は、「イスラエルパレスチナの2国家共存が、和平交渉の目標であることに変わりはない」ことを強調しています。いまやガザこそが、かつてのゲットーです。「ナチスドイツとユダヤ人ゲットーが共存することが、アメリカのいう和平の目標である」、とオバマの政府はいっているわけです。
 イラクからの撤退よりもアフガニスタンへの増兵に熱心なオバマイスラエルの国家安全を「中東和平」と呼ぶ、つまりイスラエルの代弁者であるオバマ
 何を今頃いってるんだね、あれはもともと、金融資本が狛犬として仕立てた大統領さ、という醒めた声もあるようで。