諸国乱立権

 (承前)でも、やはり、「国(国土)」などというものがほしいのでしょうか。命を賭けてでも。更に殺し更に奪い、何世代にも亘る憎悪と反感と呪詛を更にまわりに作り出してでも。壁に囲まれ武器で護り報復の応酬を何世代にも亘って繰り返しながらでも。
 なるほど。確かに、彼らだけに、歴史に先駆けて「国なき民」を求めるのは、不公平ですね。
 それならいっそ、逆に、彼らの言い分を全面的に認めようではありませんか。彼らが、かの地に「国」を作るのには、正統な理由がある、と。かの地は、かつて彼らの神が彼らに与え、彼らの祖先が「国」を作っていた土地であり、彼らの祖先はその後その地を追われたとはいえ、彼らは再び、そこに「国」を回復する権利をもっているのだ、と。
 とはいえ、何しろ「王国」ですから、彼らの国もまた、何らかの征服によって建てられたのではないかとも疑われ、そうなると更に古い歴史的権利をもつ民の末裔が現れないとも限りませんが、まあ、そう固いことはいわないことにしましょう。アメリカにならって、ユダヤの民が祖先伝来の土地を奪い返して「国」を建て排他的支配を行う「権利」を認め、更にそれを暴力的に実現しようという軍事「行為」も認めましょう。
 ところで、彼らの祖先がそこに住んでいたのは、何世紀のことだったのでしょうか。紀元前ですか。かの地の先住民でありながら、数千年前にその地を追われたユダヤの民の子孫には、その後に住み着いて2千年ほどを過ごして来た人々を追い出して、「国」を回復する権利がある。そういう主張を、アメリカが強力に支持しているわけですね。
 ちなみに、そのアメリカですが、僅か2、3百年前までは、そこを祖先伝来の土地としていた先住民族がいたこと、ご承知の通りです。紀元前が認められるのだから、当然、アメリカ大陸の先住民もまた、その後にやってきた白人たちを追い出して、国を回復する権利があります。イスラエルアメリカは、もちろんそのことを認めるのでしょう。
 国際社会は、イスラエルの建国を認め、レッドアメリカの建国を認め、アボリジニーオーストラリアの建国を認めるでしょう。当然人ごとではありません。少なくとも、北海道はアイヌの国となり、沖縄は琉球国となるでしょう。つい百年余り前に日本とは別国として万博に出展した薩摩も独立し・・・そういえば吉里吉里国も、というわけで、現在数十カ国存在する、いわゆるミニ独立国の類も、権利を主張するに違いありません。もちろん、歴史を遡れば、全国各地に、中央権力に席巻された、様々な「くに」のタネがあるでしょうから、望めばいくらでも増えてゆくでしょう。何しろ紀元前を持ち出すイスラエルを認めようというのですから、ほとんど認められないものはないでしょう。
 とはいえ、諸国乱立が完全解放されるには、まだまだかかりそうです。さしあたり、アメリカとイスラエルに率先してもらいましょう。白人たちをどこか居留地に移住させて、アメリカ大陸に「バッファロー国(仮称)」ができるなら、真っ先にイスラエルが承認するに違いありません。